コラム
実践口育|新生児期の今日の抱っこが子供の未来の歯並び・鼻呼吸を育てる「生後すぐからできること」
新生児期のいびきや口呼吸が心配? 口育は知識ではなく評価から|赤ちゃん歯科総論
当院では、「知識を得ること」ではなく、「我が子を評価し、その子に合った関わりを実践すること」を「実践口育」と呼んでいます。
世の中にはたくさんの口育があります。どれも間違いではないかもしれません。しかし、赤ちゃんは一人ひとり違います。大切なのは、「どの方法が正しいか」ではなく、「我が子には何が必要か」をまず知ることです。
この記事の目的は、「口育を教えること」ではありません。
「なぜ、赤ちゃん歯科で口育を知る必要があるのか」を理屈としてお話しすることです。当院では、生後2週間の新生児期から通われてる赤ちゃんもいらっしゃいます。
「口育が大事」だと、多くの場所で言われるようになりました。でも、その先——「では今日から、具体的に何をすればいいのか」まで答えてくれる場所は、まだ多くありません。
赤ちゃん歯科は、その空白を埋めるためにあります。むし歯を防ぐためではなく、矯正治療そのものが必要にならないお口を、生まれた瞬間から一緒につくっていくための医療です。
「こうすればいい」という知識だけでは、口育は完成しません。我が子の今の状態を正しく評価すること——そこから初めて、何をすべきかが見えてきます。
一般的な乳幼児歯科健診
→むし歯・歯の生え方が中心
目的:むし歯の有無、歯の生え方の確認
見るもの:歯・歯ぐきの状態、口腔内の清潔さ
タイミング:歯が生えてから、または生え揃ってから
ゴール:むし歯のないお口を保つこと
当院の赤ちゃん歯科
→骨格・呼吸・発育が中心
目的:矯正治療そのものが必要ないお口づくり
見るもの:姿勢・抱っこの癖・筋肉の緊張・呼吸の様子
タイミング:妊娠期・歯が生える前から関われる
ゴール:鼻呼吸ができる骨格環境をつくること
この記事の目的は、「口育を教えること」ではありません。
「なぜ、赤ちゃん歯科で口育を知る必要があるのか」を理屈としてお話しすることです。
例えば世の中にはーー
- 口育講座
- ベビーマッサージ
- 抱っこ教室
- 離乳食教室
- ベビー整体
があります。でも、誰がその子の評価をしているのか?
YouTube・Instagram・本・SNS・ChatGPTーー
親御様はいろいろ見ます。でも、「うちの子に何が必要なのか」は教えてくれません。
当院の口育は、方法論を伝えることではありません。では何か。「評価と実践」です。
評価がない→現状が分からない→だから実践が合っているかも分からないーーこれが一番危ういです。
口育の考え方とは医療そのものです。
例えば、薬でも、手術でも、まずーー
- 診る
- 評価する
- 診断する
- 治療する
です。なのに、SNSやインターネット上の口育情報は、その子固有の評価を抜きに「これやってください」というものーー口育とは広義の矯正治療です。すべての赤ちゃんに同じことが当てはまるわけではありません。
SNSやインターネットにはたくさんの口育があります。
- 抱っこ
- 授乳
- 離乳食
- マッサージ
- 舌
- 呼吸
どれも大切です。しかし、もっと大切なことがあります。それは「その子に本当は何が必要なのか」。正しい方法でも、間違ったタイミングなら意味がありません。親御様の負担軽減を主旨とする、口育とは意義が異なる情報も混在しています。
赤ちゃんは100人いれば100通り。
- 向き癖も違う
- 筋緊張も違う
- 舌も違う
- 哺乳も違う
だから、方法だけ真似しても意味がないかもしれない。赤ちゃんは情報では育ちません。必要なのは、まず評価です。
- 今どうなっているか
- 何が原因か
- 何を優先するか
そこが分からなければ、どんな口育も、何のためにやっているのか分からなくなります。
私たちは抱っこを教えるためにセミナーをしているわけではありません。授乳を教えるためでもありません。それらは過程です。
赤ちゃんを評価し、親御様自身が我が子を見る目を育てること。それが目的です。
「これをやってください」という一般論だけが流通し、その子自身を見ていないのでは何かがずれています。
情報だけでは、その子に合っているかどうかは判断できません。大切なのは、一般論を知ることだけではなく、まずはその子の現在の状態を適切に見極めることです。
口育は、「方法論」の前に、評価から始まらなくてはいけない大切な取り組みなのです。
- 抱っこの方法
- マッサージの方法
- 離乳食の方法
それら自体は、ネットで学べるかもしれません。しかし、「我が子に今、本当に何が必要なのか」を判断するには、赤ちゃんの身体を実際に見て、評価することが欠かせません。
文面での伝達には、必ず解釈のズレ(齟齬)が生まれる可能性があります。そのズレによって一番困るのは、赤ちゃん自身です。だからこそ、当院では、具体的な実践の部分は、実際にお会いして、赤ちゃんを拝見した上でお伝えするようにしています。
赤ちゃん歯科は「むし歯を防ぐ場所」ではない
矯正治療が必要にならないお口をつくることが目的
一般的な乳幼児歯科健診の多くは、むし歯の有無や歯の生え方を確認することが中心です。もちろん、それも大切な役割です。
ですが、それらの機会でさえ、「不正咬合の傾向があるので歯科での受診をーー」となりがちです。となると、矯正歯科での「治療や経過観察」という結論になります。ランパセラピーは、その空白に「骨格・呼吸」という重要な概念が抜けている可能性を心配しています。
だからこそ、赤ちゃん歯科が見ているのは、歯並びの先にあるものです。歯並びが悪くなる前に、そもそも歯並びが悪くならない骨格を育てること。矯正治療が「必要なくなるように」、それが難しければ「せめてその負担が少なくなるように」——これが赤ちゃん歯科の目的です。
歯が生える前から積極的に関わってほしい
「まだ歯も生えていないのに、歯医者に相談するなんて早すぎるのでは」ーーそう感じる方は多いと思います。
実際はその逆です。歯が生える前、お腹の中にいる時期からでも、赤ちゃんの将来のお口づくりに関われることがあります。例えば、妊娠中のママの姿勢が、子宮の形に影響し、赤ちゃんの口蓋(上顎の天井部分)の形にまで影響する可能性が報告されています。口蓋の形は歯並びや呼吸の基本です。お腹にいる時から、骨格の育ち方はすでに動き始めています。生まれてすぐであっても、当院なら早すぎるということはありません。
赤ちゃん歯科は「問題を解決する」のではなく、「問題をつくらない」ための医療
骨格の劣成長が引き起こすものは、歯並びの悪化だけではありません。呼吸、姿勢、睡眠の質ーーお子様の生活の土台に関わる範囲は、想像以上に広いものです。
だからこそ、赤ちゃん歯科は「悪くなったものを治す」のではなく、「悪くならないように育てる」予防的な関わりです。矯正治療という選択肢が必要になる前の段階で、できることがあります。
赤ちゃん歯科が最初に見るサイン|我が子の「異変」に気づけていますか?
お口ポカン・いびき・向き癖・寝返りをしない・縦抱っこが好き
赤ちゃんは言葉で不調を伝えられません。赤ちゃん歯科の診療で、最初に確認することがあります。
- お口が開いたままになっていないか。
- 眠っているときにいびきをかいていないか。
- いつも同じ方向ばかりを向いていないか。
- 寝返りをする時期になっても、あまりしようとしないか。
- 抱っこのとき、縦抱きばかりを好んでいないか。
などです。これらは単体で見ると、「よくあること」に思えるかもしれません。でも一つずつ、丁寧に確認する意味があります。
| 気になるサイン | 一見すると | 確認したいこと |
|---|---|---|
| お口が開いている | 例えば眠くて開いているだけ | 舌の位置・鼻呼吸の有無 |
| いびきをかく | 例えば疲れているだけ | 鼻腔・副鼻腔・気道の広さや状態 |
| 向き癖が強い | 例えばただの癖 | 首・肩周りの筋肉のバランス |
| 寝返りをしない | 例えばただの個人差 | 体幹の発達具合 |
| 縦抱っこ好き | 例えば抱かれ慣れているだけ | 姿勢が舌骨の位置に与える影響 |
これらのサインが示していることーー筋肉の緊張と口呼吸の始まり
これらのサインの多くは、根っこの部分で繋がっています。例えば、首や肩周りの筋肉に緊張があると、舌を支える舌骨の位置が下がります。舌骨が下がれば舌も一緒に下がり、上顎を内側から支える力が弱まります。支えを失った上顎は、成長の方向を変えていきます。そして舌が上顎から離れることは、そのまま口呼吸の始まりでもあります。
何かのきっかけが口呼吸に繋がり、それが骨格の成長に影響していく。赤ちゃん期のサインは、独立した出来事ではなく、ひとつながりの現象として見る必要があります。
いわゆる姿勢が悪い例です。このような姿勢がよくないとの意味ではなく、特定の筋肉に偏った力がかかり続けることが問題です。少々事情は異なりますが、大人の肩こりや腰痛もそうです。
例えば、姿勢の悪さによる肩甲舌骨筋の過緊張は、喉の辺りにある舌骨という骨の位置を引き下げます。舌骨は通常、首の骨(頸椎)の3番あたりの位置にあってほしい骨です。
少々見えづらいかもしれませんが、赤い線の右側に写っている小さな骨が舌骨です。画像では、4番と5番の間くらいに位置しています。理想より下がった位置ということです。
舌骨は、別の筋肉を介して、舌や下顎とも繋がっています。ということは、舌骨の下方移動は、舌や下顎も下方に引っ張ります。つまり、口呼吸になりやすい状況といえます。
口呼吸とは、舌が上顎についていない状態ということです。ここで起こりうることが主に二つです。
- 顎が小さくなる
- 中顔面(上顎)が下がる
イラストは健全な上顎、舌が上顎についている状態です。口呼吸では、この中の「舌圧」がなくなり、外からうちに向かう圧力が優位になります。つまり、顎が小さくなるーー叢生(ガタガタの歯並び)の原因です。
もう一点ーー中顔面が下がると、骨格にネガティブな変化が起こり、空気の通り道である、鼻腔と副鼻腔が物理的に狭くなります。要は、物理的に鼻呼吸がしづらい状況に陥ります。
鼻副鼻腔が狭くなると、口呼吸は仕方のない状況です。ただ口呼吸では、舌が下がり、気道を塞ぐので結局息苦しい。身体は防衛本能を発揮して、気道を拡げようとします。その表出の一例が、さらなる「姿勢の悪化」です。
赤ちゃんには、まだ早いと思われたら要注意です。画像は赤ちゃんなりの姿勢の悪さ。姿勢の悪化と口呼吸は密接です。そして、口呼吸の原因はいつに間にか「骨格」の問題に入れ替わる可能性があります。負のループです。
サインを見るだけでは不十分ーー本当に大切なのは「なぜそうなっているのか」を評価すること
「うちの子、向き癖があるかも」「縦抱っこが好きみたい」ーーそう気づくことは、とても大切な第一歩です。
でも、気づいた先に必要なのは、「なぜそうなっているのか」を確認することです。姿勢の癖なのか、筋肉の緊張の偏りなのか、それとも別の要因なのか。原因が分からなければ、対処のしようがありません。赤ちゃん歯科では、口腔内スキャナーによる計測も含め、赤ちゃんの成長を総合的に拝見した上で、お子様ごとの状態をお伝えしています。
赤ちゃん歯科セミナーという形を選んだ理由
知識を伝えるだけでなく、実践をなるべく安全な形でお伝えする。そのために選んだのが、セミナーという形式です。「はじめての赤ちゃん歯科総論」から、抱っこ、身体の見方、マッサージ、離乳食まで、実際にお会いし、赤ちゃんの状態を拝見しながらお伝えします。
赤ちゃんセミナー①抱っこの秘密|日常の「抱っこ」は顎と呼吸の発育を左右する
赤ちゃんの首が後ろに倒れると、何が起きるか
抱っこのとき、赤ちゃんの首が後ろに反り気味になっていないか、意識したことはありますか。
首が後ろに倒れると、舌を支える筋肉や舌骨も一緒に引っ張られ、舌の位置が下がります。舌が上顎から離れれば、上顎は内側から支えられなくなり、本来の方向へ広がっていく力を失います。数十分の抱っこの姿勢が、毎日繰り返されることで、顎の発育に影響を与えていきます。
Cカーブが守るのは背骨だけではない
赤ちゃんの背骨は、生まれたときは丸くカーブした状態(Cカーブ)にあります。このカーブが自然に保たれる抱っこが、赤ちゃんにとって負担の少ない体勢です。
Cカーブが崩れ、体が反り返るような姿勢になると、その影響は背骨だけに留まりません。首が伸び、頭が後ろに倒れ、先ほどの舌骨・舌の位置の変化へと繋がっていきます。Cカーブは、姿勢だけでなく、鼻呼吸の環境そのものを守る役割を持っています。
縦抱っこが「少々心配」な理由
縦抱っこ自体が、一概によくない訳ではありません。ただ、縦抱っこを好む赤ちゃんの中には、その体勢の方が「頭を後ろに預けやすく、楽に感じている」場合があります。首や体幹の発達が十分でない時期にその姿勢が習慣化すると、首の反りや舌の位置の変化が、より起こりやすくなることがあります。
縦抱っこが好きなこと自体を心配する必要はありません。ただ、そのときの首の角度、頭の位置がどうなっているかーーそこを見てあげてほしいのです。
赤ちゃんセミナー②からだの見方|我が子の小さなサインに気づける目を持つ
姿勢・動きのクセ・お口の発達ーー何を、どう見るか
赤ちゃんの発達を見るとき、姿勢、体の動かし方のクセ、お口の使い方は、別々のものではなく、一つの身体の中でお互いに影響し合っています。例えば、片方に偏った姿勢は反対側の筋肉の緊張を生み、それが顎や舌の使い方にまで波及することがあります。
「ここを見てあげると安心」というポイントは、実は限られています。ただ、そのポイントを知っているかどうかで、気づける・気づけないの差が大きく変わります。
「なんとなく気になる」その直感は、正しいかもしれない
いわれてみれば「なんとなく、この子の抱かれ方は偏っている気がする」ーーそう感じた親御様は、多いのではないでしょうか。
その「なんとなく」は、多くの場合、正しい直感です。毎日そばで見ているからこそ気づける変化があります。ただ、その直感を「では、どうすればいいのか」に繋げるためには、専門的な視点が必要になります。
SNSでは教えてくれない「我が子だけ」のサイン
インターネットや動画には、赤ちゃんの発達に関する情報があふれています。それらは一般論としては役立つことが多いです。
ただ、そこに書かれているのは「多くの赤ちゃんに当てはまること」であって、「我が子に今、何が起きているか」ではありません。同じ「向き癖」といっても、原因も程度も赤ちゃんによって異なります。一般論を我が子に合わせて読み解く作業は、文章や動画だけでは足りません。
赤ちゃんセミナー③マッサージが口育に繋がる理由
筋肉の緊張をほぐすことが、鼻呼吸の環境をつくる
ここまで見てきたように、首や肩周りの筋肉の緊張は、舌骨の位置を通じて、鼻呼吸のしやすさに直結しています。マッサージによって身体の緊張をほぐすことは、単なるリラックスではなく、鼻呼吸をしやすい身体の状態を整えることに繋がります。
血行を促すことも、良質な睡眠や便秘の改善に関わるといわれています。身体全体のコンディションを整えることが、巡り巡ってお口の発育にも影響していきます。
スキンシップは愛情であり、同時に口育の実践でもある
マッサージの時間は、親子のスキンシップの時間でもあります。触れ合うこと自体が、赤ちゃんの心の安定に繋がります。
そしてその同じ時間が、身体の緊張をほぐし、姿勢を整え、結果として口育の実践にもなっている。愛情表現と医療的なケアが、一つの行為の中で両立している。これが、赤ちゃん歯科がマッサージを大切にしている理由です。
赤ちゃんセミナー④離乳食が顎を育てる|BLW
噛む力は、教えられるものではなく、育てるもの
離乳食は、栄養を摂るためだけの時間ではありません。噛む、飲み込む、舌を動かすーーお口の機能そのものを育てる、実践の場です。
噛む力は、ある日突然身につくものではありません。月齢に合った固さの食事を、繰り返し噛むという経験の積み重ねの中で、顎の骨は少しずつ刺激を受け、育っていきます。柔らかいものばかりを与え続けると、その刺激の機会そのものが失われてしまいます。
「食べさせ方」が、抱っこや姿勢と同じくらい大切な理由
離乳食は「何を」食べさせるかだけでなく、「どんな姿勢で」「どう食べるか」も、発育に関わっています。
足裏をきちんと床、もしくは椅子の足置きにつき、座った姿勢が安定していなければ、正しく噛み、飲み込む動作はしにくいです。ここまでお伝えしてきた抱っこや身体の発達の話と、離乳食の話は、切り離せるものではありません。姿勢が整っているからこそ、食事の中での口育も正しく機能します。
段階を急がない・飛ばさないという、当院の考え方
離乳食の進め方には、月齢の目安があります。ただ、目安通りに進めることよりも大切にしているのは、お子様の発達段階に合っているかどうかです。
「食べ方」をきちんと学べなければ、丸呑みの癖がつくことがあります。逆に、いつまでも柔らかいものに留まれば、顎への刺激が不足します。当院の離乳食教室では、月齢だけでなく、お子様一人ひとりの口腔機能の発達に合わせた離乳食の進め方をお伝えしています。
諸説ありますので、数値に関しては目安と傾向となります。
縄文時代から現代にかけて、日本人の「不正咬合(歯並びの乱れ)」と「正常咬合(きれいな歯並び)」の割合は、歴史の歩みとともに逆転しています。縄文時代は「ほぼ100%が正常咬合」だったのに対し、現代人は「約60%〜70%以上に何らかの不正咬合」の傾向があるとの指摘もあります。
1. 縄文時代:不正咬合は「ほぼゼロ(1%未満)」
縄文人の人骨を調査すると、歯並びがガタガタな(叢生など)骨はほとんど見つかりません。ほぼすべての人が、親知らずまで真っ直ぐ生え揃っているそうです。
- 特徴:顎の骨が非常に強固で、横に広く四角い顔立ちをしています。
- 食生活が「超・硬食」だったのも大きな理由。干し肉、木の実、硬い貝類などを日常的に全力で噛む必要があったため、咀嚼筋が発達し、顎の骨も大きく育ちました。歯が並ぶためのスペースはできやすい環境です。
2. 弥生時代〜江戸時代:徐々に不正咬合が増加
弥生時代に「稲作(米食)」が始まると、日本人の顎と歯並びに変化が訪れます。
- 弥生〜鎌倉時代:調理技術が進み、食べ物を「煮て柔らかくする」文化が定着し始めます。噛む回数が減ったことで、顎のサイズが徐々に小さくなり始め、ここで数%〜10%程度の割合で不正咬合が見られるようになります。
- 江戸時代:白米を食べる習慣が広がり、さらに「一汁一菜」のような柔らかい食事が中心になります。特に肉体労働をしない貴族や将軍家、都会の町人の間で顎の退化が進み、不正咬合の割合は15〜20%程度まで上昇したとされています。
3. 明治〜昭和初期:西洋食の流入と「受け口」の増加
明治維新以降、肉やパン、洋菓子といった西洋の食文化が一気に流入します。
- 特徴:食べ物がさらに柔らかくなったことで、顎の成長が明確に遅れ始めます。
- 割合:この頃になると、全体の約30%近くの人に、歯の重なりや上下の顎のバランスが崩れた不正咬合が見られるようになります。
4. 現代(昭和後期〜2020年代):6〜7割以上が不正咬合に
戦後の高度経済成長期から現代にかけて、日本人の食生活は「ほとんど噛まなくても飲み込めるもの」で埋め尽くされるようになりました。
厚生労働省の「歯科疾患実態調査」などによると、現代の日本人の歯並びの割合は以下のようになっています。
- 不正咬合の割合:約60%〜70%
- 最も多いタイプ:叢生(乱ぐい歯)がダントツの1位です。
- 現代の構造: 顎の骨はどんどん細く小さくなっているにも関わらず、「永久歯の大きさ自体は、縄文時代から大きく変わっていない」というミスマッチが起きています。
不正咬合は、人類の「食の変化」と密接に結びついた現代病の一つとも考えられます。ただ、それは不正咬合の原因の小さくはない一要素。どこを見ても、食生活の変化が諸悪の根源のように記載されています。
特に現代はお子様の「口呼吸」や「姿勢の悪さ」も重なり、骨格が正しく育ちにくい環境にあるため、不正咬合が非常に高い割合になっているというのが現状です。
お口の発達について、「咀嚼筋の問題が全て」かのような記載がされています。もちろん小さくはない要素です。ですが、「他はただのおまけ(補強要素)なのか?」というと、実はそうではありません。
「咀嚼筋の力」と「それ以外の要素」は、どちらが主・従という関係ではなく、複合的な要素として骨格を形作っています。
そもそも咀嚼筋は咀嚼に関わる筋肉群の総称
咀嚼筋を構成する4つの筋肉。そして、「舌」は咀嚼筋群ではありません。
- 咬筋(こうきん)
場所:頬のあたりにあります。奥歯をグッと噛み締めたときに、エラのあたりで硬く盛り上がる筋肉です。
役割:下顎を引き上げ、食べ物を噛むための「主役」です。人体の中で最も単位面積あたりのパワーが強い筋肉の一つとされています。
- 側頭筋(そくとうきん)
場所:頭の横(こめかみあたり)に広がる、扇状の大きな筋肉です。奥歯を噛み締めると、こめかみがピクピク動くのがこれです。
役割:下顎を引き上げると同時に、顎を後ろに引く役割を持ちます。噛み合わせの「位置調整」に深く関わっています。
- 内側翼突筋(ないそくよくとつきん)
場所:下顎の骨の内側(裏側)に隠れている筋肉です。外からは触れません。
役割:「咬筋」と対になって、下顎を挟み込むようにして上に引き上げます。
- 外側翼突筋(がいそくよくとつきん)
場所: 顎関節のすぐ近く、深部にあります。
役割: 他の3つが「顎を閉じる」のに対し、この筋肉は「下顎を前に突き出す」「口を開ける」「顎を左右にすり潰すように動かす」という、複雑な動きを担当しています。
咀嚼筋が働くのは「食事の時(1日合計1時間ほど)」だけ
咀嚼筋が全力で強い力を発揮するのは、基本的に「物を噛んでいる時」です。 現代人の1日の合計咀嚼時間は、約10〜20分(縄文人は数時間)とされています。つまり、咀嚼筋による強い刺激は、1日のうちのほんのわずかな時間しかありません。
それに対して、「呼吸」「姿勢」「舌の位置」は24時間ノンストップで骨格に影響を与え続けています。骨は「一瞬の強い力」よりも「弱くても持続的な力」によって形が変わる性質もあるため、睡眠中も含めた24時間の環境が非常に重要です。
咀嚼筋以外の「重要」な要素
- 「舌(ベロ)」の押し出す力と支える力
正常な人のベロは、上顎の裏(スポット)にぴったりと張り付いています。ベロは強力な筋肉の塊であり、内側から上顎を押し広げることで、きれいなU字型の歯列を作ります。
しかし、現代人は顎が小さく口呼吸も多いため、ベロが下に落ちる「低位舌(ていいぜつ)」になりがちです。内側からの押し出しがなくなり、外側(頬・唇)の筋肉の圧力が優位になるため、上顎は狭くなります。子どものストローの使用を心配するのもこのためです。
- 鼻呼吸:内側(ベロ)と外側(頬・唇)の力のバランスが取れ、顎が正しく成長しやすい。
- 口呼吸:内側の力が消え、外側の力だけが勝つため、顎が狭くなりやすい。
そして、もう一つ。低位舌は上顎を支えられません。すると、上顎の位置は落ちてきます。「重力」がかかっているからです。
- 「姿勢(頸椎の傾き)」と頭重のバランス
頭が前方に突き出た姿勢(ストレートネックや猫背)になると、首の前側の筋肉や、のど周辺の筋肉(舌骨筋群)が、下方向へ強く引っ張られます。 これにより下顎が後ろに引かれ、物理的な口呼吸となってしまいます。
咀嚼筋、舌の位置や姿勢、これらは相互的に影響しあっています。
【硬いものを噛まない(咀嚼筋の低下)】 ↓ 【顎の骨が横にも前にも育たない】 ↓ 【鼻腔(鼻の空気の通り道)が狭くなる】 ↓ 【鼻で息がしづらいので「口呼吸」になる】 ↓ 【口を開けるために「姿勢」が崩れ、日常的にベロが下がる】 ↓ 【さらに顎が育たなくなり、ガタガタの歯並び(叢生)になる】
例えば、縄文人は、硬いものを噛むことで「咀嚼筋」を鍛えたと同時に、「正しい鼻呼吸」「正しい舌の位置」「まっすぐな姿勢」がキープできる骨格を維持していました。
現代人の不正咬合の改善において、単に「筋力をつけましょう」だけでは解決しないのはこのためです。「呼吸のルートを確保し、姿勢を正し、ベロを正しい位置に戻す」という、24時間の環境づくりこそが「鍵」です。
ただ、舌の役割とは、顎の骨格を正しく育てることであって、間違った成長をした骨格を直すことはそう簡単にできません。
「知識」があっても、「できている」とは限りません
文面では伝えられない理由ーー齟齬が一番困るのは赤ちゃん
ここまで、抱っこの姿勢、身体の見方、マッサージの意味、離乳食についてお伝えしてきました。ただ、正直にお伝えしなければならないことがあります。
具体的な抱き方の角度、マッサージの手順ーーこうした細かい実践方法を、文章だけで正確にお伝えすることには限界があります。文面での伝達には、必ず解釈のズレ(齟齬)が生まれる可能性があります。そのズレによって一番困るのは、赤ちゃん自身です。だからこそ、具体的な実践の部分は、実際にお会いして赤ちゃんを拝見した上でお伝えするようにしています。
産婦人科看護師経験を持つ歯科医師として伝えられること
当院の院長は、歯科医師になる前、産婦人科で看護師として勤務していた経験を持っています。妊娠期からの母子の身体の変化を見てきた立場と、歯科医師としてお口の発育を診る立場、その両方から赤ちゃんの発達をお伝えできることが、当院の特徴です。
SNS・動画・AIでは「我が子に合っているか」は分かりません
インターネット上の情報は、一般的な知識としては役立ちます。ただ、それが「我が子に当てはまるかどうか」までは、文字や動画、AIによる回答では判断できません。
知ることと、我が子に合わせて実践できることの間には、埋めなければならない空白があります。その空白を埋める場所として、赤ちゃん歯科セミナーをご用意しています。
赤ちゃん期は「歯並び」のスタート地点
口育がうまくいけば、矯正は必要ないかもしれない
赤ちゃん期からの口育が正しく実践できれば、お子様が将来、矯正治療そのものを必要としない可能性があります。歯並びは、骨格が正しく育った結果として、自然についてくるものだからです。
うまくいかなかった場合の選択肢として、RAMPAがある
ただ、様々な要因が重なり、骨格の劣成長がすでに進んでしまっている場合もあります。その場合の選択肢として、当院ではランパセラピー(RAMPA療法)による、骨格そのものへのアプローチによる矯正治療を行なっています。
赤ちゃん期の口育も、成長期のランパセラピーも、目指しているゴールは同じです。呼吸ができ、正しく骨格が育った、健やかなお口をつくること。赤ちゃん歯科は、そのスタート地点です。
赤ちゃん歯科セミナー
「知識」を「我が子に合った実践」に変える場所として、赤ちゃんセミナーを開催しています。まずは無料の「はじめての赤ちゃん歯科総論」から、お気軽にご参加してみてください。「違うな」と思われれば、続ける義務はありません。
■赤ちゃん歯科セミナーの主なメニュー
赤ちゃん歯科は、個別セミナー・グループセミナーともに平日午前中限定。主にお話しと実践のお伝えになります。例えばーー
- 初回:赤ちゃん歯科をお伝えします!
いきなり参加もご不安でしょう。初回の赤ちゃん歯科総論は無料でお気軽にご参加いただけます。
- 1 よりよい抱っこの仕方を学ぼう!
赤ちゃんの発達に必要なCカーブを作り、健全な発達を促す抱っこを目指します。
- 2 赤ちゃんへのマッサージをお伝えします!
寝返りやハイハイのサポート、ベビーカー・バウンサーのよりよい使い方もお伝えします。
- 3 赤ちゃんのからだの見方をお伝えします!
ママが、先生となって、赤ちゃんを見る目を持てるようにお手伝いします。
- 4 お口を育てる離乳食・おやつを学ぼう!
お口を育てる離乳食とおやつの体験ができます。
- 初回以外は自費診療となります。詳しくは自由診療の費用をご覧ください。
私たちの願いは、RAMPAを受けていただくことではありません。
その前に、赤ちゃん期の発育によって健やかな骨格と鼻呼吸を育み、矯正治療そのものが必要にならない未来を目指すことです。
それでも成長の途中でサポートが必要なお子様には、その子に合わせた次の選択肢をご提案します。
近年、SNSや動画などで「口育」という言葉を目にする機会が増えました。それ自体はとてもよいことだと思います。一方で、同じメソッドが、すべての赤ちゃんに等分に当てはまるわけではありません。大切なのは、知識を増やすことだけではなく、我が子を正しく知ること。赤ちゃん歯科は、そのための場所です。
赤ちゃんの頃から、正しい呼吸、正しい姿勢、正しい骨格を育み、将来、矯正治療そのものが必要ない未来をつくること。それが、赤ちゃん歯科の目指す医療です。
人生のスタート地点。赤ちゃんは、基本的に「鼻呼吸しかできない」構造を持って生まれてきます。ただ、鼻呼吸が難しい=生命の危機では困りますので、さまざまな応急処置を駆使して呼吸を確保します。でも、基本的な構造では「鼻呼吸しかできない」なんです。
なぜ、赤ちゃんは口で息をすることが難しいのか。赤ちゃんの「義務的な鼻呼吸」という事実は、人間の進化におけるメカニズムに基づいています。
解剖学的な構造
- 喉頭(こうとう)の位置が高い:赤ちゃんの喉頭は、大人に比べて非常に高い位置にあります。
- 軟口蓋と会蓋(えがい)の接触:赤ちゃんは口の奥にある「軟口蓋(柔らかい天井)」と、喉の蓋である「会蓋」がほぼ接触した状態にあります。これにより、鼻から肺への空気の通り道が「独立した一本のパイプ」のようになっています。
この構造の最大のメリットは、母乳を飲みながら呼吸を続けられることです。「飲む」と「呼吸」を同時に行うための設計なんですね。
- 飲み物のルート:口 → 喉の両脇を通って食道へ。
- 空気のルート:鼻 → 軟口蓋の後ろを通って気管へ。
この2つのルートが分離されているため、赤ちゃんは窒息のリスクを最小限に抑えながら、長時間おっぱいを飲み続けることができます。大人がこれをやろうとすると、飲み込む瞬間に呼吸を止めなければなりませんが、赤ちゃんにはその必要がありません。
なぜ「口呼吸」に切り替えられないのか?
生後数ヶ月までの赤ちゃんは、舌がお口の空間に対して相対的に大きく、かつ喉頭の位置が高いため、口から吸い込んだ空気をスムーズに気管へ送り込むための空間(中咽頭)が十分に確保されていません。
そのため、鼻がつまると赤ちゃんはパニックになり、激しく泣きます。「泣く」という行為は、赤ちゃんができる「強制的な口呼吸」でもあります。
いつから口呼吸ができるようになるのか?
生後4カ月〜6カ月頃になると、成長に伴って、喉頭が徐々に下の方へ降りてきます。
すると、軟口蓋と会蓋の間に隙間ができ、口からの空気も気管へ入るようになります。この時期から、人間特有の複雑な「発語」が可能になり、同時に離乳食を食べる準備が整います。
本来、「生後数ヶ月までは鼻呼吸しかできない」ように設計されている通り、人間は鼻呼吸がデフォルトです。しかし、成長の過程で上顎骨(中顔面)の成長に問題が生じ、鼻腔が狭くなってしまうと、本来は「緊急用」であるはずの口呼吸が、「常用」になってしまいます。
持って生まれた鼻呼吸のシステムが、成長とともに崩れてしまうのか、それとも維持できるのか。その鍵を握るのが「口腔域の骨格の正しい成長」。主役は「上顎についた舌」です。
となると、そのSOSは、「口呼吸・いびき・鼻づまり‥」として現れます。
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この記事を監修した人
こどもと女性の歯科クリニック
院長 岡井有子
看護師として京都府内産婦人科等勤務を経て、大阪歯科大学に入学。大阪歯科大学大学院歯学研究科で小児歯科学を学ぶ。歯学博士。
2017年東京都港区麻布十番にランパセラピー専門医院「こどもと女性の歯科クリニック」開院。
2024年「医療法人社団セントワ」開設。同法人理事長就任。
日本小児歯科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会・日本ダウン症学会所属。
RAMPA研究会・赤ちゃん歯科ネットワーク所属。
2025年European Conference on Dentistry and Oral Health(パリ)、MENA Congress for Rare Diseases(アブダビ)などにおいて、ランパセラピー学会発表。
プライベートでは2児の母として忙しい毎日を送っている。
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