コラム
口育って何?|歯医者しか伝えられない子供のお口の育て方「将来的な矯正治療のリスクを減らす↓」
子どもの生活習慣とは広義の矯正治療 歯科医師が伝える発達支援|口腔機能を育む知識
「口育」という言葉を、最近見かけるようになった方も多いと思います。でも、その言葉の意味を正確に説明できる人は、まだ多くないかもしれません。
口育とは、赤ちゃんのころから始まる、お口の機能を正しく育てるための考え方です。食べること、飲み込むこと、呼吸すること、そして話すことーーこれらは生まれながらに備わっているように見えて、実は日々の生活の中で育てていくものです。

ここで一つ、視点を変えてみてください。
毎日の食事の仕方、呼吸の仕方、姿勢、授乳の体勢ーーこれらはすべて、子どもの顎と口の発育に影響を与えています。つまり、日々の生活習慣そのものが、広い意味での矯正治療です。よい習慣は顎を正しく育て、悪い習慣は顎の成長を妨げます。矯正装置をつける前の日常こそが、歯並びの未来を決めています。
歯科医師として伝えたいのは、矯正治療で「悪くなった歯並びを後から整えれば解決」ではなく、「本来は矯正なんて必要にならないことがベスト」だということ。歯並びが悪いことは、骨格の劣成長によって現れる現象の一面です。矯正治療の多くでは、その一面にしかアプローチができないからです。
歯並びを整えること(矯正治療)の主目的はやはり審美となるでしょう。骨格の再構築(RAMPA)の主目的は呼吸、すなわち「健康」です。ランパセラピーはその過程で歯並びを整える矯正治療です。
口育という視点を早く知っておくことが、将来的な矯正治療の可能性を下げる、つまり骨格の劣成長の可能性を下げる、最初の一手になります。
妊娠期から始まるお口の発達過程の知識
以下は目安です。特に出生後は、お子様ごとに成長は様々です。目安とされた時期より「遅い」と過度に心配し過ぎず、医療と共有されてください。このような心配を持たれる親御様は、心配が勝ちますので、案外お医者さんときちんと共有されます。
成長には正しい順序があります。「目安より早く立った」「ハイハイの時期なんてなかった」と一見成長が早いことを好意的に受け取られてしまう空気感の方が要注意です。必要な過程を飛ばしている可能性があります。ずり這い、ハイハイ、意味のある必要な過程です。赤ちゃんは、これらの動きで呼吸筋を含む抗重力筋を鍛えています。
これらが鍛えられていないとーー呼吸や姿勢がすでに心配です。
| 胎生期 | 口腔機能の発達 |
|---|---|
| 5-6週 | 歯板(dental lamina)の形成 ・歯の原基となる組織(歯板)が口腔上皮から出現。すべての歯の形成はここから始まる。 |
| 7-8週 | 乳歯の歯胚(tooth germ)形成開始 ・20本すべての乳歯の歯胚が形成されはじめる。口唇の形成もこの時期に進む。 |
| 8-10週 | 口蓋の癒合完成 ・上顎の天井(口蓋)が左右から癒合し完成する。この時期の障害が口蓋裂に関連する。 |
| 14-16週 | 歯冠の形成・石灰化の開始 ・エナメル質・象牙質の石灰化が開始。歯の硬組織が形成されはじめる重要な時期。 |
| 28-32週 | 歯冠部の石灰化ほぼ完成 ・前歯部を中心に歯冠の石灰化が進む。永久歯の歯胚も形成されはじめる。 |
| 37-40週 | 出生・哺乳に特化した口腔の完成 ・哺乳に適した口腔環境が整う。舌は下顎に対して大きく、鼻呼吸しながら吸乳できる解剖学的構造を持つ。 |
| 出生後 | 口腔機能の発達 |
|---|---|
| 0-1ヶ月 | 吸啜(きゅうてつ)反射・哺乳反射 ・口に触れると吸いつく原始反射が活発。母乳育児が顎・口腔の筋機能発達を促す。Cカーブ抱っこが重要。 |
| 2-3ヶ月 | 姿勢と口腔発育の関係が始まる ・首・肩まわりの筋緊張が舌骨の位置に影響しはじめる。抱っこ紐の使い方が発育に関わる時期。 |
| 4-5ヶ月 | 離乳食準備期・舌の動きが変化 ・舌の動きが前後運動から上下運動へ移行。首がすわり、離乳食開始の準備が整いはじめる。 |
| 5-6ヶ月 | 離乳食開始・顎への咀嚼刺激が始まる ・適切な固さの食事が顎の骨に刺激を与え発育を促す。柔らかすぎる食事は顎への刺激が不足する。 |
| 6-8ヶ月 | 初めての歯(下顎乳中切歯)萌出 ・下の前歯2本が最初に生える。噛む力が顎の発育をさらに助ける。口腔ケア開始のタイミング。 |
| 8-10ヶ月 | 上顎乳中切歯萌出・口腔機能が急発達 ・上下の前歯が揃い噛む動作が安定。舌の使い方が急速に変化する重要な発達期。 |
| 10-12ヶ月 | 乳側切歯萌出・姿勢と呼吸の確立期 ・つかまり立ちが始まり姿勢と呼吸の関係が重要になる。1歳までの過ごし方が将来の歯並び・呼吸の土台を決める。 |
| 出生後 | 発達のサイン | 口育・呼吸との関係 |
|---|---|---|
| 0-2ヶ月 | 原始反射・吸啜反射 ・モロー反射、把握反射が活発。哺乳の吸いつきが強い。 | 吸啜反射が顎の筋肉を鍛える。Cカーブ抱っこが首・肩の過緊張を防ぎ、鼻呼吸を促す最初の基盤となる。 |
| 2-3ヶ月 | 腹臥位での頭部挙上 ・うつ伏せで頭を持ち上げ始める。頸部筋が発達する。 | 頸部の筋力発達が舌骨の安定に直結。うつ伏せ遊び(タミータイム)が体幹・呼吸筋を育て、口腔機能の土台となる。 |
| 3-4ヶ月 | 首すわり(頸定) ・頭部を自力で保持できるようになる。 | 舌骨が安定した位置に保たれやすくなる。嚥下・鼻呼吸機能が向上する重要な節目。首がすわることで抱っこの姿勢の選択肢も広がる。 |
| 4-5ヶ月 | 寝返り ・仰向けからうつ伏せへ。体幹の回旋運動が始まる。 | 体幹の回旋が発達し、姿勢保持の土台ができる。離乳食開始の準備期と重なり、舌の動きが前後から上下へ移行しはじめる。 |
| 5-6ヶ月 | 支持座位 ・支えると座れる。体幹筋が発達してくる。 | 上体を起こす筋力が発達。離乳食開始と重なり、咀嚼の刺激が顎の骨の発育を後押しする。この時期の食事の固さが顎の成長を左右する。 |
| 6-7ヶ月 | ずり這い(はいずり) ・腹部を床につけたまま前進。四肢と体幹の協調運動。 | 体幹・上肢・頸部の協調的な筋力発達が進む。この運動が肩甲骨まわりの筋肉を鍛え、肩甲舌骨筋の過緊張を防ぐ。舌骨の位置が安定しやすくなり、鼻呼吸の維持に好影響。 |
| 7-8ヶ月 | 独坐(お座り) ・支えなしで安定して座れる。 | 抗重力姿勢の基礎が確立。座位が安定すると食事中の姿勢も整い、咀嚼・嚥下機能が正常に発揮されやすくなる。口呼吸の兆候が観察しやすいのもこの時期。 |
| 8-9ヶ月 | 四つ這い ・手と膝を使って這う。上肢・体幹の筋力が必要。 | 四つ這いは体幹・肩甲帯・頸部を総合的に鍛える。ずり這いを飛ばした場合、肩まわりの筋力発達が不十分になることがあり、舌骨の安定に影響する場合がある。 |
| 9-10ヶ月 | つかまり立ち ・物につかまって立ち上がる。下肢・体幹の筋力が急発達。 | 重力に抗して全身を保持する力が整う。頸部・肩甲帯の正しい姿勢が維持されることで、舌骨の位置も安定し口呼吸になりにくい体の土台が完成に近づく。 |
| 10-11ヶ月 | つたい歩き ・壁や家具を伝いながら横移動。バランス感覚が発達。 | 重心移動の習得が体幹の安定をさらに高める。乳側切歯が萌出し、前歯での噛み切り動作が始まる時期と重なる。食事形態の見直しのタイミング。 |
| 11-12ヶ月 | 独立歩行へ 支えなしで数歩歩ける。全身の協調運動が完成に近づく。 | 1歳までの全身発達が、顎・呼吸・姿勢の土台を決める。ここまでの過ごし方が将来の歯並び・鼻呼吸の獲得に大きく関わる。1歳を迎えたら口腔の状態を専門家に診てもらう機会を。 |
口育とは口腔機能を育てること
一般的な口育では「姿勢・食」などに焦点を当てられます。意外性から考えれば「足」という視点もあります。全てが無視できないことです。ですが、それらで十分かといわれれば必ずしもそうではありません。口育の考えと理屈を理解し、無理のない生活習慣としてどう落とし込めるかーー生活習慣そのものが口育です。
その時だけ行う、トレーニングのような取り組みではないのです。
口育として、お伝えしたいことは多くあります。具体的に何を行えばよいのか。それらは、インターネット上でいくらでも探せます。ただ、必ずしも、インターネット上の情報が正しいかどうかは分かりません。真偽が怪しければ、育児書も多く出版されています。
そこに理屈があり、納得ができるかどうかを大切にしてください。それが口育の入り口、土台です。
ここではRAMPA専門医院の歯科医師として「なぜそれが必要なのか」、口育を納得して取り組むためのその理由をお伝えします。
そもそも口腔機能って何?
口腔機能とは主に以下の3つの役割を担う機能です。
- 食べる(摂食・嚥下)
- 話す(発音・発語)
- 呼吸をする(鼻呼吸◎・口呼吸✖︎)
これらの3つの機能は、「口唇の閉鎖」「舌の運動」「軟口蓋の挙上」などの機能によって支えられます。これらは相互関係にあるので、何かの機能が落ちると、その他の機能不全に繋がる恐れがあります。
つまり、お口とは全身から総合的に育ててあげないと、何かしらの機能低下が何かしらの現象、例えば上手に食べられない、発音がおかしいという現象として表出します。その先にあるのが、歯科的にいえば歯並びの悪化、RAMPAの視点からいえば骨格の発達不良による呼吸機能の低下です。
危ういのは、親御様の意識はいつの間にか「歯並び」へと移り、上手に食べられないことや発音がおかしいことにはいつの間にか慣れてしまい、「癖」や「個性」ともなってしまうことです。歯並びが悪いことには骨格の劣成長、呼吸の問題が潜んでいる可能性を忘れないでください。
実は、口育の時期を過ぎると、困ったことが起こります。子どもが大きくなった時、呼吸の問題は耳鼻科領域になります。鼻炎・副鼻腔炎、いびきや睡眠時無呼吸までーーこれらで歯科を受診することはまずありません。歯科では診断も下せません。
むし歯処置やむし歯予防ならば、歯科の領域です。歯並び・審美もそうです。しかし、歯並びと呼吸、これらは到底別々に考えられる関係性ではありません。歯科と耳鼻科で対処が分かれていまい、困ってしまう前に、お子様のお口を育ててあげてください。
いくつかの歯科的問題と耳鼻科的問題、その根は赤ちゃん期からの「口腔機能」の成長にあります。
口育とは
「口育」とは、お子様の未来の健康を土台から支える取り組み。お子様の将来を考えた場合、「口育」は矯正治療よりも重要な取り組みです。つまりーー
- 赤ちゃん期から口育に取り組むことで、たとえ矯正治療が必要になったとしても、軽い負担で済む可能性が高くなる。
↓
- 赤ちゃん期の口育を軽視してしまうことで、矯正治療の負担が重くなる。ここでもっと大切なのが「どこまで改善できるかが不透明」になってしまうことです。そして審美だけでは済まされない、「骨格」や「呼吸」という問題が高い確率で関わってきます。
そして、口育が目指すものーー
- 正しい鼻呼吸の獲得
- 正しい舌の位置
- 正しい顎の成長
これらが全てが崩れる状態、それが「口呼吸」です。
口育のすべてを親御様が理解し、実践するのは大変です。ですが、心に留めておいてください。
ちゃんとできているかどうか分からないーー何となくかもしれないけれど、日常的に「鼻呼吸」ができていれば、それは概ねよい方向です。「口呼吸」が日常となっていれば、何かがおかしい可能性が高いです。
人生のスタート地点。赤ちゃんは、基本的に「鼻呼吸しかできない」構造を持って生まれてきます。ただ、鼻呼吸が難しい=生命の危機では困りますので、さまざまな応急処置を駆使して呼吸を確保します。ただ、基本的な構造では、鼻呼吸しかできません。
なぜ、赤ちゃんは口で息をすることが難しいのか。赤ちゃんの「義務的な鼻呼吸」は、人間の進化におけるメカニズムに基づいています。
解剖学的な構造
- 喉頭(こうとう)の位置が高い:赤ちゃんの喉頭は、大人に比べて非常に高い位置にあります。
- 軟口蓋と会蓋(えがい)の接触:赤ちゃんは口の奥にある「軟口蓋(柔らかい天井)」と、喉の蓋である「会蓋」がほぼ接触した状態にあります。これにより、鼻から肺への空気の通り道が「独立した一本のパイプ」のようになっています。
この構造の最大のメリットは、母乳を飲みながら呼吸を続けられることです。「飲む」と「呼吸」を同時に行うための設計なんです。
- 飲み物のルート:口 → 喉の両脇を通って食道へ。
- 空気のルート:鼻 → 軟口蓋の後ろを通って気管へ。
この2つのルートが分離されているため、赤ちゃんは窒息のリスクを最小限に抑えながら、長時間おっぱいを飲み続けることができます。
なぜ「口呼吸」に切り替えられないのか?
生後数ヶ月までの赤ちゃんは、舌がお口の空間に対して相対的に大きく、かつ喉頭の位置が高いため、口から吸い込んだ空気をスムーズに気管へ送り込むための空間(中咽頭)が十分に確保されていません。
そのため、鼻がつまると赤ちゃんはパニックになり、激しく泣きます。「泣く」という行為は、赤ちゃんができる「強制的な口呼吸」でもあります。
いつから口呼吸ができるようになるのか?
生後4カ月〜6カ月頃になると、成長に伴って、喉頭が徐々に下の方へ降りてきます。(※)
すると、軟口蓋と会蓋の間に隙間ができ、口からの空気も気管へ入るようになります。この時期から、人間特有の複雑な「発語」が可能になり、同時に離乳食を食べる準備が整います。
(※):この咽頭が下がってくるのも、「重力」の影響が大きいですが、負の影響というわけではありません。しかし、ランパセラピーをすでにご存知の方なら、「重力」の影響はお分かりのはずです。まだ早い、これからの方は知っておいてください。「重力」は人の身体に24時間365日かかり続ける力。その影響は思いのほか「早くて速い」です。
本来、「生後数ヶ月までは鼻呼吸しかできない」よう設計されている通り、人間は鼻呼吸がデフォルトです。しかし、成長の過程で上顎骨(中顔面)の成長に問題が生じ、鼻腔が狭くなってしまうと、本来は「緊急用」であるはずの口呼吸が、「常用」になってしまいます。
持って生まれた鼻呼吸のシステムが、成長とともに崩れてしまうのか、それとも維持できるのか。
その鍵を握るのが「口腔域の骨格の正しい成長」。主役は「上顎についた舌」です。となると、そのSOSは、「口呼吸・いびき・鼻づまり‥」として現れます。
つまり、主役がその仕事を降りてしまっている状態です。
口育の柱:呼吸・食・姿勢のポイント
口育で注意すべきポイントは主に以下の3つです。
鼻呼吸◎・口呼吸✖︎
鼻呼吸の確立が最優先
- 眠っているとき口が閉じているか確認
- 鼻づまりが続く場合は耳鼻科へ
- お口ポカンは早めに専門家に相談
- 鼻呼吸は口呼吸より酸素摂取効率が高い研究もある
- いびきは気道の狭さのサインかも
BLW(離乳食)の提案
顎への咀嚼刺激
- 月齢に合った固さの食事を選ぶ
- よく噛む習慣が顎の骨を育てる
- 柔らかすぎる食事は発育刺激が不足
- BLWで自分で食べる力を育む
- 離乳食の固さを段階的に上げていく
姿勢の悪さが悪循環の始まり
骨格・顎発育の土台
- Cカーブ抱っこを意識する
- 授乳・抱っこの姿勢を定期的に見直す
- うつ伏せ遊びで体幹・頸部を育てる
- 猫背・スマホ姿勢は口呼吸を招く
- 姿勢の悪さは舌骨の位置を下げる

当院のWEBサイトで、まだ触れていないことがあります。「足」のお話しです。当院では、「足」のお話しは主軸ではありませんが、理屈自体はあります。
足指・足裏全体を使い、重心を保って立っていないと、立位のバランスが崩れます。例えば、かかと側に重心がかかると、体全体でバランスを取り、頭側を前に突き出したような姿勢になりがちです。上イラストの右側のような姿勢です。イラストは「舌骨」の問題を指摘するイラストですが、経緯はともかく、悪影響のきっかけになりかねないことは分かります。
ただ、舌骨の話でも同様ですが、機能の問題として捉えられる期間はそう長くはありません。日常的な口呼吸は、いずれ構造(骨格)の問題として中身が入れ替わります。だから、そう簡単には改善できなくなってくるのです。
重要:口育と矯正治療の間の空白
「顎をまるく育てましょう」と伝えることと、「なぜ、まるく育てなければいけないのか」を最後まで伝えることは、全く別のことです。そして「うまく育てられなかった場合、次に何をすべきか」まではなかなか伝わっていません。
口育とは乳幼児期の取り組みを指しますので、ある程度の年齢で区切られてしまうことも多いです。
さんかくの顎、口呼吸ーーそうならないようにお口を育ててあげましょう。できたか、できなかったか、成功か、失敗かーーでは、うまくできなかった場合ーーここに空白があります。
口育といわれる時期は過ぎてしまったかもしれません。しかし、その取り組みの重要性は、実は子どもどころか、大人であっても同じです。「育てること」も「これ以上悪くしない」も、それどころかまだ改善も望めるかもしれない。やるべきことは「口育」と一緒です。
コロナ禍のマスク生活で、歯並びが悪くなってしまった大人が急に増えました。そして上顎が下がってしまっている大人も多いです。おじいちゃん、おばあちゃんになっても「さんかくの顎」の方も実際少なくないのです。
「まるい顎」は、歯が並ぶためだけにあるのではありません
口育とは、赤ちゃんのころから始まる、お口の機能を正しく育てるための考え方です。食べること、飲み込むこと、呼吸すること、そして話すことーーこれらは生まれながらに備わっているように見えて、実は日々の生活の中で育てていくものです。
その中心にあるのが、顎の形です。
「顎をまるく育てましょう」という言葉は、口育の文脈でよく出てきます。まるい顎とは、上顎の歯列弓が横方向と前方向に十分に広がり、なめらかなアーチを描いている状態のことです。これに対して、前方が尖り気味に狭くなった状態を「さんかく(もしくはV字)の顎」と呼ぶことがあります。

では、なぜまるい顎が大切なのでしょうか。「歯が並ぶスペースができるから」ーー正解ですが、半分です。
まるい顎とは、鼻呼吸を支え、気道のスペースを確保し、歯がきちんと並ぶ土台ができている証です。そして、まるい顎に育てる主役が上顎についた舌です。
上顎の骨の成長は、鼻腔や副鼻腔の形成にも関わります。上顎が十分に育っていれば、鼻副鼻腔の容積は保たれ、空気の通り道が確保されます。その必要条件が「鼻呼吸」です。
口呼吸となり、舌が上顎から離れれば、上顎を成長させる力のベクトルは失われます。その結果、鼻腔は狭くなり、気道も圧迫されます。その証が「さんかくの顎」です。
つまり「顎をまるく育てることは、子どもが一生、正しく呼吸するための環境を整えること」です。歯並びは、そのプロセスの最後についてくるものです。口育を頑張りましょうーー大切なことです。ただ「できなかった場合はーー」も同じくらい大切なことなのです。
さんかくの顎は「歯が並ばない形」ではなく「呼吸の道が歪んだ状態」の証
「口育が大切」と伝えられます。「まるい顎に育てましょう」と教わります。でも、うまく育てられなかったとき、次に何をいわれるかというとーー多くの場合、矯正治療の話に飛びます。
果たして、口育で謳われていたものって「歯並び」だけだったでしょうか。
その間に何があるのか。なぜ、さんかくになってしまったのか。さんかくになってしまった顎で、今、何が起きているのか。この説明が、すっぽり抜けています。
「歯が並ばないから矯正が必要」ではなく、「呼吸の道が歪んでしまったから、骨格からの介入が必要」ーーこの認識の違いが、治療の選択を大きく変えます。
口育が「介入」になるのは、何をする場合か
口育の文脈で推奨される生活習慣には、様々なものがあります。
- よく噛んで食べることーー咀嚼の刺激が、顎の骨の発育を促します。柔らかいものばかり食べていると、顎が十分な刺激を受けられず、成長が滞ります。
- 正しい姿勢を保つことーー姿勢の悪さは、首や肩まわりの筋肉を緊張させます。その緊張が舌骨を引き下げ、舌の位置を下げ、口呼吸を誘引します。姿勢と呼吸は、繋がっています。
- 鼻呼吸を習慣にすることーー口呼吸は、鼻呼吸に比べて酸素の取り込み効率が低くなります。副鼻腔で産生される一酸化窒素(NO)は、鼻呼吸によって肺へ運ばれることで、肺の毛細血管を拡張させ、酸素摂取効率を高める役割を持ちます。口呼吸では、このメカニズムが機能しません。
- 正しい抱っこ・授乳の姿勢ーー赤ちゃんの首や肩への負担を最小限にすることが、舌骨の位置を保ち、鼻呼吸を促す環境を作ります。
これらは、日々の生活の中で顎と口の発育に影響を与え続けます。よい習慣は顎を正しく育て、悪い習慣は顎の成長を妨げます。その意味では、生活習慣そのものが広義の矯正治療です。
しかし、です。
これらの習慣を意識し、実践してきたご家庭の中にも、お子様の顎がさんかくになってしまうケースがあります。それは、習慣への取り組みが足りなかったのではありません。骨格の劣成長が、生活習慣での介入が届く範囲を超えて進んでいる場合があります。
口育の「次」を、誰も語らない
口育を推奨する発信は増えました。しかしその多くは「顎をまるく育てましょう」で終わります。さんかくの顎になってしまった場合の「次」を語ることは、ほとんどありません。
なぜかといえば、「次」を語るためには、骨格に介入する治療の話をしなければならないからです。そしてその話は、一般的な歯科の守備範囲を超えています。口育と矯正治療ーー目的が一致していないのであれば、途中で何かが抜け落ちています。
骨格の問題へと進展した顎は、生活習慣の改善だけでは、元に戻りません。すでに骨格レベルで変化が生じている場合、口周りの筋肉をトレーニングしても、マウスピースを装着しても、骨格そのものを動かす力には届きません。
必要なのは、骨格に直接介入する治療です。
上顎の骨を、本来あるべき方向ーー前へ、そして上へ引き上げること。これによって、狭まっていた顎が拡がり、鼻腔と気道のスペースが回復し、舌が正しい位置に収まる環境が整います。歯並びは、この変化の結果としてついてきます。
ランパセラピーは、この「上前方」への牽引を、三次元的に設計した装置で実現する治療です。査読付き国際論文において、ランパセラピー後の鼻腔・副鼻腔の体積拡大[1]と、頭蓋顔面の成長変化[2]が、実際の患者データとして報告されています。
口育の先に何があるかを、知っておいてほしい
「顎をまるく育てましょう」は正しいことです。でも、それだけでは足りないことがあります。
お子様の顎がさんかく気味に見える。口が開いていることが多い。いびきをかく。鼻づまりが続くーーこれらのサインは、口育の「次」が必要になっているサインかもしれません。
矯正治療が必要になることは、決して失敗ではありません。ただ、どんな矯正治療を選ぶかによって、歯並びだけが変わる場合と、呼吸から変わる場合があります。
お子様の顎が今どんな状態にあるか。呼吸の器として十分に機能しているか。まずそこから確認してみてください。
「育」という文字だけが当てはまらなくなりますが、「口育」という取り組みに終わりはないのです。
参考文献:
[1] Impact of RAMPA Therapy on Nasal Cavity Expansion and Paranasal Drainage. *Biomimetics*, 11(1), 5, 2026.
https://doi.org/10.3390/biomimetics11010005
[2] RAMPA Therapy: Effects on Craniofacial Growth Assessed by Coben Analysis and Statistical Evaluation. *Journal of Clinical Medicine*, 15(5), 1882, 2026.
https://doi.org/10.3390/jcm15051882
生活習慣改善は広義の矯正治療
「正しい生活習慣」が「口育」です。「0期矯正」という言葉を、当院は使用しませんが、そのイメージ通り、「口育」とは広義の矯正治療です。
そして、生活習慣の影響によるお口の成長は良くも悪くも「早くて速い」です。そうはいっても、それは生活習慣、様々なご事情がご家庭ごとにあります。例え、うまくいかなかったとしても過度に責任を感じないでください。でも諦めないでください。ことは、お子様の呼吸や歯並び、将来に関わります。
【n=1】のエピソードですがご紹介しますーー
- 矯正治療を検討するほどのガタガタ歯並びのお子様。都会っ子らしく、ゲームやテレビ、運動不足が日常的でした。ある夏休み期間中まるまる、祖父母の家で過ごされたそうです。自然に囲まれながらの外遊び、雑巾がけのお手伝いーーたった数ヶ月そのような生活を送っただけで、驚くほど歯並びが改善していました。
- そして、こちらは我が子です。コロナ禍前までは姿勢もよく、我が子ながら順調な経過を辿っていると感じていました。しかし、コロナ禍に入り、外出自粛、オンライン授業ーーゲームやテレビも黙認してしまいました。その結果、あっという間に悪くなりました。歯科医師としては、恥ずかしいお話しです。
広く知られている口育はある期間で区切られてしまうことが多いですが、お子様の成長は続きます。「口育」ではやれるだけやったつもりだけど、完璧とはいかなかった。「さんかくの顎」「姿勢の悪さ」「口呼吸」がある。やれるだけやったのにーーかもしれないですが、それは無意味ではありません。口育も続くのです。結論を出すのはまだ早いです。
理屈を知れば、姿勢良く過ごす、運動・外遊びをする、これらも立派な矯正治療になるのはきっと理解できます。
「それでもーー」のときには、ランパセラピーがお手伝いします。
口育とは知識の活かし方
理解の深さこそあれ、「矯正治療って何?初めて聞いた!」という方は、そうはいないでしょう。しかし、「口育」の認知はまだまだ及んでいません。言葉の選び方には語弊もあるでしょうが、「矯正治療」も「口育」も親御様に大きな負担をかけます。
「まだ子どもなのに、そこまでしなくてはいけないのーー」、矯正治療をご検討の親御様から伺う言葉です。RAMPAの視点からいえば、子どもだからこそ、なのですがお気持ちは分かります。
「口育」も同じです。出産という一大イベントを乗り越えたら、もう次ーー
ただ、負担の意味は同義ともいえません。矯正治療の負担は、主に経済的負担。
口育の負担は、時間や、労力といった親御様の物理的コストです。なおさら重荷になります。親御様の負担を減らしてくれるかのように、一見優しい便利グッズも売られています。実はこれらの利便性が、口育の重要性を薄めてしまい、赤ちゃんの成長に不利益となっている場合があります。
市販の離乳食も忙しい時には仕方がありません。おしゃぶりだって必要な場面があるでしょう。ですが、知ってさえいれば、少し頑張れるかもしれません。
日々の仕事、家事、育児ーーその中での口育は大変です。それでも当院はその大変さをそのままお伝えいたします。耳障りのいい言葉で伝えても、それが赤ちゃんの不利益になるなら、それは親として望むことではないと思うからです。
だからといって「全部が全部」が難しいのは私自身も体験しています。私たちは、「伝えるだけ伝えたからあとは頑張って」ではありません。その負担のいくらかは当院が伴走します。

カテゴリー:
SNSでシェアする

この記事を監修した人
こどもと女性の歯科クリニック
院長 岡井有子
看護師として京都府内産婦人科等勤務を経て、大阪歯科大学に入学。大阪歯科大学大学院歯学研究科で小児歯科学を学ぶ。歯学博士。
2017年東京都港区麻布十番にランパセラピー専門医院「こどもと女性の歯科クリニック」開院。
2024年「医療法人社団セントワ」開設。同法人理事長就任。
日本小児歯科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会・日本ダウン症学会所属。
RAMPA研究会・赤ちゃん歯科ネットワーク所属。
2025年European Conference on Dentistry and Oral Health(パリ)、MENA Congress for Rare Diseases(アブダビ)などにおいて、ランパセラピー学会発表。
プライベートでは2児の母として忙しい毎日を送っている。
新着コラム




