コラム
顎が小さいのはサイズではなく「骨格の歪み」|「原因≠遺伝」歯が並ばないスペース不足は再構築できる
「顎が小さい」の正体は骨格の発達不良 「ガタガタ歯並びの原因の追求≠歯列矯正」
子どもの歯並びが悪いのは、「顎が小さい」からーー「遺伝だから仕方ない」と言う前に考えてほしいことがあります。
人類の遠い祖先から、顎は小さくなっている。歯の大きさはそれほど変わっていない。なるほどそうかーーそれはそれで事実です。
ですが、それは膨大な時間の隔たり。例えば一説には、明治〜昭和初期には、約30%の人に不正咬合の傾向が見られたという報告があります。厚生労働省の調査では、その数値は現代約60〜70%に変化しています。
たかだか100年余りの年月で、これだけ変化しています。人類学的な遺伝(顎のサイズの問題)が全てではなさそうです。
「顎が小さい」とは、サイズの問題ではなく、複数の骨が組み合わさった構造全体が、歪んだ形で成長してしまっているーーそれが「顎が小さい」と呼ばれている現象の、より近い姿です。
胎児期の過ごし方や、乳幼児期からの生活習慣など、様々な環境要因が積み重なって、骨格はその形に育っていきます。もし、親御様も「顎が小さい」のならば、おそらく同じように後天的な要因が主です。「顎が小さい」と先天的な「受け口・出っ歯」は事情が異なります。
よくよく考えてみてください。後天的要因によって変化した骨格構造は、遺伝をする性格のものではありません。
確かに、親御様から受け継ぐ骨格的・構造的な遺伝的傾向はあるでしょう。ですが「原因=100%遺伝」ではないのです。立ち向かうのは、遺伝的傾向の上に始まる環境的・生活的要因による「目の前の原因」です。
「遺伝だから仕方ない」と指摘されることで親御様は責任を感じてしまいます。
責任を背負い込まないでください。顎が小さいーー歯が並ぶスペースの不足は、歯を並べる治療では届かない場所、骨格そのものに働きかけることで、再構築できる可能性があります。
矯正相談に行って、「顎が小さいですね」と指摘されたお子様も多いのではないでしょうか?
その言葉通り受け取ると、率直に顎の骨のサイズの問題と思われます。しかし、当院では「骨の発達の問題で、顎が小さく見えてしまう」とお伝えしています。
歯を並べるスペースが足りないとの意味では「小さい」の表現は間違ったものではありませんが、単なる大きさの問題であることはそれほど多くはありません。
ランパセラピーでは、歯並びが悪くなる主な原因は、中顔面の発達不良としています。「中顔面とはどこを指すのか?」をまずはご理解ください。

中顔面の発達不良とは、呼吸機能(鼻腔や気道)へも大きな影響を及ぼします。そして、中顔面を構成する中心は、上の歯が生えている骨と同じ「上顎骨」です。
多くは口呼吸に端を発し、中顔面の下方成長(発達不良)を経て、顎骨の歪み(劣成長)へと繋がっていきます。「顎が小さい」とはその見え方といった方が近い。
「歯並びが悪くなる原因」の多くは、骨格の劣成長です。劣成長とは骨格が正しく育たなかった結果。そしてーー
劣成長の原因は口呼吸
なんですが‥正しくは
「舌が上顎につかないこと」「顎が小さい」の正しい理解
ここからお伝えすることは、イメージを優先しています。治療の例えではないことはご了承ください。

空き缶があります。青矢印は「中顔面の下方成長」ですが、一旦無視してください。空き缶は、外側からの力(緑矢印)と内側からの力が釣り合って、円柱形を保っています。
では「この力のバランスが崩れたらどうなるか?」をイメージしてみてください。例えば、手で軽く握りつぶすでもいいです。
少しつぶれましたでしょうか?
では、次に真ん中あたり(緑矢印)で輪切りにしてみましょう。切った後の断面はデコボコに歪んで(青線)います。
本来ならば、キレイな缶の縁にピッタリ収まるはずの決まった数の歯を、歪んだ缶の縁に並べてみます。ガタガタの歯並びができましたか?
これが叢生(そうせい)という状態、「いわゆる歯並びが悪い」です。そして、顎骨の歪みのイメージです。この断面、元々のまん丸より小さく感じられませんでしょうか?でも実際、小さくはなっていません。
歪んでいることにより、小さく見えてしまうんですね。

青いデコボコの線は、実際にはある程度の厚みを持った歯の土台です。悪影響のない範囲でとなりますが、土台に多少歪みがあっても、この厚みの範囲内で歯を動かし整えれば、歯が並ぶとして行われるのが一般的な矯正治療です。
可能な限り歯列を拡げてもスペースが足りず、歯が並ばないと予測されると、抜歯の検討が必要になります。
これらの治療では、土台自体は自然成長分以上、そうは拡がりません。骨に関わることです。歪んでしまったものも自然には戻らないのです。
大切なのはここです。この土台を正しく成長させる力は、上顎についた舌の働きによってもたらされます。つまり、自然成長分といっても、口呼吸ではその力が発揮できず、成長は不十分になります。

今一度冒頭の空き缶の写真に戻ります。外側からの力によって、空き缶は少しつぶれました。
便宜上、輪切りにしましたが、実際に歪んでしまうのは、輪切りにした緑矢印の部分だけではありません。歪みは缶全体へとわたります。
矯正治療の視点
ここが既存の矯正治療とランパセラピーの視点の違いです。
- 輪切りにした断面に焦点を当て、「どう歯を並べるかを検討するのが既存の矯正治療」
- 骨格という俯瞰から見て、「空き缶全体の歪みをどう改善するかを検討するのがランパセラピー」
治療の優劣ではありません。役割が違うんです。ということは、お子様の「歯並びの悪さの原因は何なのか?」を知り、「治療のゴールをどこに見据えるのか?」という親御様の判断が大切になります。
「どのクリニックで、どの矯正治療を行うのか?」
費用や通院の負担、もちろん考えられてください。ただ、治療前のこの判断が最大限の結果を得るための最重要ポイントですので大切にされてください。
この缶を中顔面と見立てますと、歪み方によっては歯並びだけではなく、他のことにも影響が及ぶイメージは難しくないと思います。中顔面を構成する中心である上顎骨は、歯にも鼻にも関わる骨です。
ランパセラピーでお伝えしている「呼吸(鼻腔)」に関する問題がここに当たります。
一方で、歯並び自体はそう悪くなくても、歪み自体があるならば、呼吸の問題がないとは言い切れません。


缶をいくつか同じようにつぶしても、おそらく全く同じ歪みにはならないです。この歪みには、中顔面の下方成長という要素も作用しています。ことは複雑です。不正咬合が十人十色な理由です。
ならば、何とかしてこの歪んでしまった空き缶を、「元々のきれいな円柱形へと戻せないのか?」
これがRAMPAの装置による治療に近いイメージになります。
「顎が小さい」とは骨格の問題
ガタガタの歯並びに「顎が小さい」と指摘されて、「歯の問題」とは、親御様だって思いません。顎が小さいから、歯が並ぶスペースが足りないと理解します。ここで「顎が小さい=仕方がない」にはなっていませんか?
考えてみてください。「骨格の問題」と、既存の矯正歯科でもそう伝えています。ですが、骨格は仕方がないからと、「歯列の拡大や抜歯」を提案され、親御様もそう理解します。それが既存の矯正歯科です。だから「顎が小さい」にそう大きな意味を持たせずに親御様にお伝えします。
矯正治療の目的は「歯並び」。それ自体は決して悪いことではありません。しかし、この歯並びが悪い原因は置き去りにしてよいものではありません。歯並びしかみていないと大切なことを見落としてしまう可能性があります。
歯科クリニックのホームページには「原因は遺伝」が溢れています。
当院は、歯科クリニックですので、遺伝子学に関する深い知見はありません。遺伝子への言及に関しては、当院の手に余るお話しですので何とも言えません。
ただ少なくとも、原因の追求のために遺伝子検査を行う歯科クリニックは聞いたことがありません。
「原因には遺伝の可能性がある」という真実よりは、「仕方がない=遺伝」としてブラックボックス化しているように感じてしまいます。確かに、遺伝的要素は案外多いのかもしれませんし、実はそう多くはないのかもしれません。
そもそも、生命の維持に関わる骨格の遺伝子に、明確な悪影響があるネガティブな情報がデフォルトで書き込まれるとは思えません。遺伝子には、今もきちんと顎を作る設計図はあるはずです。表出しているのは、せいぜい傾向まで。
顎が小さい原因の多くは、後天的な環境因子です。
例えば、「ご両親とも顎が小さいせいか、お子様も顎が小さくて歯並びが悪いようですね。矯正して治しましょう。」という会話に「仕方ない」は入っていませんが、なぜかそう聞こえませんか。
仮に親御様も顎が小さくて歯並びが悪かったーーだとしたらそれは後天的な原因である可能性が高いです。遺伝する性格のものではありません。
親御様は、「私たちのせいで‥」と思われるかもしれません。ただ、そこにあるのは「遺伝で仕方ない」ではなく、「顎の骨の発達不良」という事実です。立ち向かうべきはそこではないでしょうか?
歯並びではなく、骨格を改善し、お口の機能をまず正さなくてはいけない。設計図通りに成長できなかった骨格の影響は「歯並び」だけではないのです。
ですが、既存の矯正治療の多くで「顎の骨の発達不良は仕方ない」は現実です。ここをきちんと理解されてください。床矯正で骨格は変わりません。MFTの活躍する場面は予防であって、骨格の変化ではありません。
特に、骨格の変化により、すでに鼻呼吸に何らかの不具合がある場合、舌は顎を正しく成長させるその役割を担えません。舌が上顎につくと、口からも鼻からも呼吸ができないからです。
そうなると、顎の骨格に直接作用させる力とその力を正しく伝えるための別の構造が必要です。これがランパセラピーです。
「遺伝だから仕方ない」と諦めることは、子どもの可能性を削っていることになります。抜歯はその象徴です。人類学的な事実では、遺伝子は「顎はもっとちゃんと育つはず」と現代人に設計図を手渡しています。
当院では赤ちゃん歯科を設けていますので、他院よりはるかに多くの赤ちゃんを拝見します。生まれつきの赤ちゃんの骨格に「遺伝だから仕方ない」は感じられません。
遺伝ーー
人類学的な遠い祖先からの「顎の骨格の変化」。これらは事実です。
ですが、それを歯並びが悪くなる原因として、矯正歯科が親御様にお話しするには文脈に違和感があります。矯正歯科で指摘される「遺伝」とはおそらくそのような意味ではなく、親御様も骨格的に受け口気味、出っ歯気味だからーーそのようなお話しでしょう。
でも、その診断のために遺伝子検査をした、という話はおそらく聞いたことがないはずです。さらに「顎が小さい」ことには、そうなってしまう背景、理屈があります。
つまり「顎が小さいのは遺伝だから仕方ない」という説明は、検査で確かめられたものではなく、親御様やご兄弟の傾向から連想された、根拠の薄い言葉である可能性があります。
不正咬合は、ここ数百年ーー人類の進化の歴史としては、ほんの一瞬の短い時間で、急速に増えてきました。もし、本当に遺伝が原因なら、その短期間に、世界中の人類が一斉に同じ遺伝的な変化を起こしたことになります。そんな急激な変化を、遺伝だけで説明するには、あまりに時間が短すぎます。海外の研究者たちも、顎の問題とは遺伝的な変化というより、一人ひとりの成長の中で起きている変化だと指摘しています[1]。
例えば、狩猟採集民と農耕民を比較した研究では、しっかり噛む生活をしていた人々ほど顎が大きく育ち、歯が並ぶスペースも十分に確保されていたことが分かっています[2]。柔らかい食事が増え、噛む機会が減ったことが、顎の成長そのものに影響を与えている可能性が高いです。
もちろん、顎の形に遺伝が全く関係しないのではありません。ただそれは「一人ひとりの顎の形がなぜ違うのか」を説明するものであって、「なぜ人類全体の顎が小さくなっているのか」を説明するものではありません。
権威ある学術誌(BioScience, Oxford Academic)に掲載された論文では、広く見られる不正咬合の根本原因が「遺伝的病因」にあるという理論を、一部の研究が裏付けているように見えるかもしれないが、実際にはそうではないと指摘されています[3]。
身長や精神疾患、BMIなど、多くの複雑な人間の形質と同様に、顎の形状についても、遺伝的要素は数百から数千の遺伝子それぞれが極めて小さな影響を持つことに起因していると明らかになっており、これは人類の下顎・上顎が急速に縮小するような、突発的でほぼ世界規模の遺伝的変化が起きたという説明とは矛盾します[3]。
進化的な遺伝的変化が起こるには、あまりに短すぎる時間なのです。
スタンフォード大の研究者も同様の立場を取っています。2020年の研究で、顎の縮小は長期的な遺伝的進化よりも、各世代内で起きている変化によって、引き起こされている可能性が高いと主張しています。特に、ここ数世紀における人類の顎の変化の速さは、進化と呼ぶにはあまりに速すぎるとされ、姿勢などの他の生活習慣要因が顎の発達に関わっている可能性が指摘されています[1]。
先ほどの人類学的な比較研究も、この立場を後押ししています。狩猟採集民と農耕民、5つの集団と6つの集団を比較した研究では、しっかりと咀嚼する必要があった人々ほど顎が大きく発達し、歯が並ぶ十分なスペースを持っていたことが明らかになっています[2]。
そして、歯科業界そのものへの批判も、すでに専門メディアで指摘されています。これらの問題が、主に環境由来であるという証拠があるにも関わらず、多くの歯科医師が家族的な類似性や双子研究を引用しながら、顎の縮小を遺伝のせいだと指摘している現状を伝えています[4]。人類学的に、顎は縮小を続けていますが、小さい顎の人がそうでない人より多く子を残しているという証拠はなく、遺伝的変化を生むほどの淘汰圧があったとは考えにくいとされています[3]。
個人差のレベルでは、双子研究や家族研究によって、特に垂直方向の骨格パターンや歯列弓の寸法など、いくつかの頭蓋顔面の形質については、高い遺伝率が示されています[5]。つまり「顎の形に関わる遺伝子は存在しない」とは言えません。
ただ、遺伝という説明は、どこかブラックボックス化し、原因を曖昧にします。遺伝的要素があるのかないのか、そこに「治療」は大きく関係しません。「お子様の顎が小さいのは遺伝ですね」と説明し、歯列矯正へと着地させる論理はどこかがずれています。
歯並びが悪いのなら、何をまず考えなくてはいけないのか?「歯の生えかた」ではなく「骨格(土台)の成長」です。
もし、歯の生えかたの問題で済むのならば、その方がよいのです。
出典
[1] Humans used to have straighter teeth—what changed? National Geographic
https://www.nationalgeographic.com/health/article/crooked-teeth-human-evolution-jaw-size
[2] von Cramon-Taubadel, N. (2011). Global human mandibular variation reflects differences in agricultural and hunter-gatherer subsistence strategies. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(49), 19546–19551.
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1113050108
[3] Jaw Epidemic: Recognition, Origins, Cures, and Prevention. BioScience(Oxford Academic)
https://academic.oup.com/bioscience/article/70/9/759/5872832
[4] How You Can Stop the Epidemic of Smaller Jaws. Dentistry Today
https://www.dentistrytoday.com/how-you-can-stop-the-epidemic-of-smaller-jaws/
[5] Genes to jaws: A systematic review uncovering the role of genetics in malocclusion. ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2452014425002614
内外の力のバランスの乱れ
イラストは舌が正しい位置にある上顎です。歯並びを悪くさせないためには、舌が上顎につくことが重要です。内と外の力のバランスが崩れることで歯並びは悪くなります。
では、なぜ内外の力のバランスが崩れてしまうのか?
実は、空き缶の例であった緑矢印(頬圧・唇圧)に対抗する力が「舌」なんですね。舌が正しい位置にない、つまりバランスが崩れた原因は、口呼吸となります。
本来であれば「舌」は、外側からの圧力とのバランスをとることで、お口まわりの形成に要ともいえる役割を担っています。口呼吸となり、要の力がなくなったお口は、歯並びでいえばその土台を歪ませてしまいます。
歯が悪いわけではありません。生まれた時から待機していたのに、「あれ?いざ生えてみたらなんだか窮屈‥」ということなんですね。土台がきちんと成長できていないから、歯はそう生えるしかありませんでした。
土台さえきちんとできていればーー
そう「抜歯」は必要ないんです。
重要:中顔面が下がる
口呼吸で困ることはまだあります。舌が上顎につき、支えとなることで、中顔面(上顎骨を中心とする骨の複合体)は、本来の上前方へ成長します。
口呼吸は、この中顔面の成長方向を下方へと向かわせてしまいます。これに連動して下顎も下がることが、鼻腔や気道の問題や歯列の問題へと繋がります。
そして、下顎は真下に下がるのではありません。顎関節を支点に、後下方へ回転するように下がります。つまり、これも下顎が成長していないように見えるーー「顎が小さい」に見えてしまうのです。
この下方成長の要因は、自然界の力である「重力」です。対抗する力がないと常に力は加わり続けます。要するに、支えがないので重力に引かれて落ちてしまうということです。ガミースマイルの原因の可能性はここにあります。
こうなると、たかが口呼吸とはならないですね。どうにかしなくてはいけません。
しかし、鼻腔に問題があれば、物理的に口呼吸しかできません。改善の過程で、絶対的に必要になるのが「鼻呼吸」なのです。
「舌が上顎につくようにしてあげる」
矯正治療の大前提になります。すでに鼻の通りが悪い、もしくは物理的に舌を正しい位置に置けないなどは、大前提以前の話になります。
歯並びを整えることが、口呼吸を正すことにも繋がる症例は多くありません。歯列矯正に直接骨格へ作用させる力はないのです。つまり、土台は大きく変わりません。後戻りもしてしまうわけです。
ここでよく指摘されるのが「お口周りの筋力不足」。その影響が全くないとは思いません。ただ、ランパセラピーを受けられているお子様たちの多くは、特別な筋機能療法を行なわずとも「口呼吸」は改善しています。
つまり、口呼吸の原因の多くは「機能ではなく構造の問題」です。
お子様のために、毎日一生懸命に「あいうべ体操」や「MFT」を頑張られている親御様も多いと思います‥‥その努力は素晴らしいです。ですが、なかなか結果に結びつかないご家庭もあると思います。
まず、それらの治療開始時に、現状のご説明はいただきましたか?
原因を理解し、「何をどう改善するのか?」の目的は明確になっていますか?
仮にお子様の歯並びの悪さの原因が骨格にある場合、「お口周りの機能訓練」や「生活習慣改善」といったソフトウェアへの対処では、骨格への実効力までは困難です。
ランパセラピーの目的、「中顔面の上前方への成長誘導」は、他のいかなる手段でも大変難しい。「健全な成長」まで追求するならば、この上前方というベクトルは必要条件です。
つまり、「傾いてしまった家は、柱から建て直さなくてはいけない」ということ。
代替手段として、唯一とも思えるのが「舌」による誘導力ですが、そのためには鼻呼吸の徹底が必要条件です。
ですが、この骨格の問題には「鼻腔の狭小化」という「鼻呼吸最大の壁」が存在します。そう、それ以前の状態でなくては「舌の誘導力」、つまり「あいうべ体操」も「MFT」も非現実的です。
骨格の問題(鼻腔の狭小化)がある中での鼻呼吸では「息苦しい」のですから。
下がってしまった中顔面に対し、RAMPAの装置で長時間、強制的に力を加えられて、やっと骨格は上前方へ成長方向を変化させます。骨格の変化なんてそう難しくないのであれば、RAMPAがこんなに大変なはずはないのです。骨格に変化が起きてしまった結果で、口呼吸になっている。だから「口呼吸を鼻呼吸に変える」って難しいんです。MFTが活躍するのはここではありません。
中顔面の下方成長とは骨格の問題。これを医療として、そしてより健全的に改善するとなれば、私たちには「中顔面を上げる」以外の選択肢はありません。外科矯正とてリスクと限界があります。歯並びだってもちろん大切。ただ矯正治療、そこには生命の根幹、「呼吸」が関わります。
治療の優劣ではなく、これは治療の役割と選択肢。装置を使用する矯正治療で「中顔面を上前方に上げること」が可能なのがランパセラピーです。
親御様の努力が実を結ばないのは、「努力不足」ではありません。しかし、その努力を向ける先がずれているのかもしれない。原因は「骨格」というハードウェアにあるかもしれないのです。
「MFT」とは本来、予防的意義として最上位概念にある治療です。「予防」こそが、MFTが活躍する場面です。
- 「顎が小さい」、当院では根本からの改善が大切だと考えています。
- 小児矯正では「顎の成長をコントロールする治療」が可能です。
頭ごなしに否定をするつもりはありませんが、歯科のホームページでよく見かける記載です。ですが、その手段は、MFTやマウスピース型装置など。他のページには、鼻腔が狭くなって口呼吸になっているのが原因との記載もあります。
- すでに鼻副鼻腔が狭くなっていたら、鼻呼吸は難しいのでは?(結局、舌は上顎につけられない)
- MFTやマウスピースに骨格(構造)への大きな実効力はあるのかな?
- 顎の成長をコントロールする治療、根本治療とする根拠って何だろう?
率直な疑問ですが、患者様の不利益にならないように、当院の「知見不足」としてお伝えします。それぞれの治療に対して、否定をしたいのではありませんのでご理解ください。RAMPAじゃなきゃダメと言いたいのでもありません。
治療には、それぞれに役割と得意分野がありますが、制作会社が作ったサイトはどこか腑に落ちない部分があります。多くを理解していただきたい「治療」を、AIに要約されても、それでは患者様の理解齟齬に繋がる危うさがあります。
歯並びはきれいになったのに、口元の突出感や顎のズレが残ってしまうケースがあります。結局、骨格の問題なのに、その考慮が足りていなかった可能性があります。
歯並びが悪いことの原因が「顎が小さい」ならば、その多くは骨格の話です。歯列矯正とは対処療法であって、根本改善はアプローチが違います。
根本解決の手段として「外科矯正(手術)」があります。つまり、「物理的に骨を動かす処置」です。「骨切り(こつきり)」ともいわれます。
文字通り、外科的に骨を切って、適切な位置に動かします。もちろん、重要な治療の選択肢の一つです。必要な方には貴重な選択肢であることは変わりません。
お伝えしたいのは、そこにRAMPAという選択肢があることです。「骨を適切な位置に動かす」、考えは同じです。RAMPAは、手術でなければ難しいとされてきた患者様への治療の選択肢になります。
どちらがいいかは、もちろん一概には言えませんが、外科矯正一択であった骨格への根本的アプローチに対して、RAMPAセラピーが新しい選択肢であるのは確かです。
歯科矯正で対応が難しい場合、外科矯正の検討も必要です。
歯科矯正と外科矯正がアプローチするのは「歯」と「骨」です。同列にはなりません。上顎、下顎のある頭蓋骨とは、複数の骨のバランスで成り立っています。歯列への介入と骨格への介入は別の話です。
舌とRAMPAの役割


①舌が上顎につく正しい位置にない(口呼吸)ことによって青矢印の力が弱くなります。これによって黄矢印と赤矢印の力が優位になってしまいます。
その結果ーー
②中顔面の成長が下方に向かう
- 上顎骨に歪みが生じ、鼻腔を狭くさせる⇒慢性的な鼻炎や副鼻腔炎・アレルギーなど
③外側から内側に向かう力が優位になる
- 黄矢印の力と合わせて歯が生える土台を歪ませる⇒歯並びの悪化など
④舌が下がる
- 舌が落ちることによって、気道を狭くさせる⇒いびき・無呼吸・喘息・姿勢の悪化など
となります。緑矢印のような正しい成長方向に誘導する力はどこにもありません。
この青矢印の力を、一旦代わりに担うのがRAMPAのシステムです。
RAMPAによってお口の環境が整ったら、その仕事はきちんと上顎につくようになった舌にバトンタッチです。
そうは言われても、ランパセラピーについて「エビデンスはあるんですか?」と親御様に心配なるでしょう。それはそうです。
一方、SNSなどの発信では、安易に「エビデンス」という言葉が使われている印象を受けます。まず、エビデンスには「レベル」があります。おそらくそれらまで知らずに使っている。だから「安易に」という印象を受けてしまいます。
エビデンスレベル
- メタ分析:複数の信頼できる論文を統合・分析したもの。
- ランダム化比較試験(RCT):患者をランダムに2群に分け、治療の有無で結果を比較した統計学的な試験。
- コホート研究:特定の集団(例:口呼吸の子)を長期間追跡し、要因と結果の関連を調べる。
- 症例対照研究:すでに結果が出ている人を過去にさかのぼって比較研究する。
- 症例報告:実際の患者さんの治療経過や臨床報告。
- 専門家の意見:権威のある先生の見解や基礎研究。
親御様のエビデンスは、おそらく「レベル1」を指していますね。
「レベル1」であっても、それは統計学的な平均値であって、「100人のうち100人全てに効果がある」というような「絶対」ではありません。例えば「100人のうち70人には効果がある」という統計です。つまり、残りの30人には「レベル1」は無意味ということになります。
率率に言います。ランパセラピーに「レベル1」のエビデンスまではありません。そうなるべく積み重ねている過程にあります。
全ての革新的な治療は、まず「レベル6」の一人の閃きから始まります。30年ほど前の三谷先生の閃きと努力がそれです。研究に注力したとしても、それが「レベル1」まで昇華するには数十年かかります。
ただ、数十年後の「レベル1」は「今、呼吸に悩んでいる子ども」にとっては何の救いにもなりません。
三谷先生ご自身も仰っていますが、「私たちは研究者ではなく、臨床家」です。目の前の子どもたちを「どうにかできないか?」が全ての根本にある想いです。「レベル1」になるまで、子どもの成長は待ってはくれません。
私たちは「100人」という統計・平均値を追う議論よりも、目の前の「100通り」の子どもたちのために仕事をしています。
ランパセラピーが、目の前の代わりのきかない一人ひとりの子どもたちの人生の土台になれば、それは何よりの喜びです。
ランパセラピーに画一的な統計データが不足しているのは事実ですが、ランパセラピーを明確に否定できるエビデンスがないのもまた現実です。
その代わり、当院には数百症例を超える「個別化された臨床的エビデンス」があります。既存の矯正治療の常識を乗り越え、生き残ることができる科学的根拠であるようにランパセラピーは歩んでいます。
そして大切なこと。EBM(エビデンスに基づく医療)について。
EBMの提唱者サケット博士は、エビデンスに基づく医療とは、以下の三要素の統合と定義しているそうです。
- 外部エビデンス(研究結果・論文など)
- 医療者の臨床技能(経験・技術・専門性など)
- 患者の意向と価値観
統計や研究は、臨床を助けるものであって、それらは患者さんのためにあると理解しています。
ともすれば「エビデンスは?」との問いかけは、臨床と患者さんを軽視した発言になりかねません。革新的な医療に対し、「レベル1」のエビデンスがないからと否定をするのは、EBMの理念にも反した「エビデンスという言葉の誤用」になります。
ランパセラピーは、既存の矯正治療を否定するものではありません。矯正治療の種類とは、役割と選択肢です。ただ、既存の矯正治療に新たな視点と可能性を示し、新たな根拠となるべく積み重ねている矯正治療なんですね。
「顎が小さい」に対する治療とは?
必ずしも「顎が小さい」=「顎が小さく見えてしまう」ではありません。複合的な場合もあります。いずれであっても、患者様にとって大切なのは、「小さいであろうが、小さく見えるであろうが、この治療でそれをなんとかできるのか?」ということでしょう。
「顎が小さい」というサインは、子どもたちの将来に、大きな問題を投げかけます。せめて、安易に抜歯というご判断はされないでください。
歯科医師にも得手不得手があり、すべての治療にスペシャリストとはいきません。正直に申せば、当院は難易度の高い抜歯など、口腔外科領域に関する治療は不得手です。信頼のできる他院の先生に処置をお願いし、患者様に少なからずご不便をかけることもあります。
一方で、顎顔面口腔育成治療(ランパセラピー・バイオブロックセラピー)に関しては、専門医院として取り組んでいます。他の矯正治療を取り扱うことは、今までもこれからもありません。
矯正治療の種類を、「目的は同じだけど手段が違う」とのご理解があるかもしれませんが、床矯正や急速拡大装置等のRAMPA以外の矯正治療で、RAMPAと同じことはできません。
クリニックの発信としても、医療メディアの記事としても、「顎を広げる」という言葉は曖昧な定義で使われていることが多いですが、そのリスクを考えたら、明確に定義をする必要があります。
「顎が小さい」に対して「顎の骨格を広げる」という治療は多くありません。床矯正で広げるのは歯列です。この行き違いによって、不利益を被るのは子どもたち。親御様におかれては、本当に注意をされてください。
同じメディア内の記事同士でさえ、「床矯正で顎を広げる」、「床矯正は歯列を広げる」という記載。「どっちなの?」という医療メディアさえ見受けられます。ことの重大性を理解していない証拠です。
歯並びが悪くなる原因は置き去りにできません
- 本来、ヒトの設計図では歯は自然に並んで生えてくるようにできています。しかし赤ちゃんは、二足歩行のヒトの骨盤の仕組み上、成長が十分とはいえない状態で生まれざるを得ません。赤ちゃんは生まれた段階で、すでに乳歯は生える準備が整っています。ただ、生まれたとはいっても成長が不十分な状態であるので、お口も日々の生活の中で育ててあげなくてはいけません。
- 日々の生活の中で、お腹の中で成長させたかった様々なことと同じことができるものでもありません。とはいえ、赤ちゃんはどんどん成長していきます。お口の不具合に、遺伝的もしくは胎児期の成長が関係していたとしても、赤ちゃん期ならば骨格にはまだ柔軟性があります。「顎が小さい」は、「顎が小さくなるように育ってしまった」と理解してください。赤ちゃん歯科でもお手伝いします。
- 口呼吸とならないこと。これが非常に重要です。歯並び同様、ヒトの設計図では鼻呼吸となるように元々はなっています。多くの場合、様々な要因が積み重なり「口呼吸になってしまった」となります。「口呼吸」はお口を育てるにあたって、最重要NGワードです。口呼吸のメカニズムを逆算します。「口呼吸になる」→「舌骨の位置が下がり、下顎や舌が下方に引っ張られて、舌が上顎につかなくなる」→「姿勢の悪さや運動不足からくる筋肉の干渉が、舌骨の位置を下げている」です。悪循環のスタートは姿勢の悪さや運動不足からくる場合が多いです。
- 口呼吸、つまり「舌が上顎につく正しい位置にない」ことには様々な弊害があります。特に、上顎についた舌には中顔面の成長を正しい方向(上前方)へ導くという大切な役割があります。口呼吸によって、上顎から離れてしまった舌の役割を代わりに担う力はありませんので、重力の影響からその成長方向は下方へと向かい、「中顔面の発達不良」から、歯並びが悪くなる根本原因である「上下顎の劣成長」へと繋がっていきます。「顎が小さい」とは、この一部です。
- 大切なことは、これらは「骨格的な問題」であるということです。この骨格の問題は、主に「歯並び」「鼻腔」「気道」に関わる問題の大きな原因となります。具体的にいえば、歯並びが悪い・ガミースマイル・慢性的な鼻炎や副鼻腔炎・いびき・睡眠時無呼吸などがその代表です。これらの症状は、どこかありふれて軽視されがちな空気感を感じることがありますが、総じて、体や脳の酸素不足を招いている可能性があることを考えてみてください。
- これらは本来、健全な成長を続け、健全な骨格であったならば起こらなかった可能性が高いということになります。歯並びのことも、呼吸のことも、問題があるならば原因がある。原因があるならば、その根本にアプローチをかけ、可能な限り本来的な骨格を取り戻す。ランパセラピーとはそのための治療です。「顎が小さい」とは、悪循環がすでに始まっている身体のSOS。「治すのは歯並びだけでいい」は軽い決断ではありません。

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この記事を監修した人
こどもと女性の歯科クリニック
院長 岡井有子
看護師として京都府内産婦人科等勤務を経て、大阪歯科大学に入学。大阪歯科大学大学院歯学研究科で小児歯科学を学ぶ。歯学博士。
2017年東京都港区麻布十番にランパセラピー専門医院「こどもと女性の歯科クリニック」開院。
2024年「医療法人社団セントワ」開設。同法人理事長就任。
日本小児歯科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会・日本ダウン症学会所属。
RAMPA研究会・赤ちゃん歯科ネットワーク所属。
2025年European Conference on Dentistry and Oral Health(パリ)、MENA Congress for Rare Diseases(アブダビ)などにおいて、ランパセラピー学会発表。
プライベートでは2児の母として忙しい毎日を送っている。
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ランパセラピーのバイオメカニクスと理屈


