コラム
子どもの出っ歯|前歯の問題か、下顎の問題か——噛み合わせが深い・歯ぐきが見えるも同じ顎の話
子どもの出っ歯(上顎前突)とは 子どもに多い「下顎が後ろにある」相対的な出っ歯
前歯が前に出ている、口が閉じにくそう、横顔の口元が気になる——「うちの子、出っ歯かもしれない」——
出っ歯というと、前歯が前に出ている状態を思い浮かべます。けれど、子どもの出っ歯の多くは、前歯だけの問題ではありません。上の前歯と下の前歯の距離が開いているのは、上の前歯が前に出ているからなのか、下顎が後ろにあるからなのか。ここを確かめないまま治療を選ぶと、治しているつもりで、原因をそのまま残してしまうことがあります。
「噛み合わせが深い」「笑うと歯ぐきが見える」——これらも、出っ歯と同じく、上下の顎の位置と向きから起こることがあります。
子どもの出っ歯とは|子どもに多いのは「下顎が後ろにある」出っ歯
出っ歯は、歯科では「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」と呼ばれます。上の前歯が、下の前歯より大きく前に出ている状態です。上下の前歯の前後の距離を「オーバージェット」といい、2〜3mm程度が標準とされています。この距離が大きく開いている状態が、いわゆる出っ歯です。
ただ、同じ「前に出ている」でも、原因は大きく二つに分かれます。
歯が原因の出っ歯
顎の骨の位置に大きなずれはなく、上の前歯が前に傾いている、または下の前歯が内側に傾いているタイプです。指しゃぶりや、下唇を噛む癖、舌で前歯を押す癖が続くと、前歯は少しずつ傾いていきます。歯が原因であれば、癖を止めることと、歯の傾きを整えることが治療の中心になります。
骨格が原因の出っ歯
上顎と下顎の位置関係そのものがずれているタイプです。上顎が前に出すぎている場合と、下顎が後ろにある場合が考えられますが、子どもで多いのは後者です。
8〜10歳の出っ歯の子どもたちの骨格を調べた研究では、もっとも多く見られた特徴は「下顎が後ろにあること」で、上顎の骨が前に出すぎているケースは多くありませんでした。顔の下半分が縦に長いことも、よく見られる特徴の一つでした[1]。
つまり、子どもの出っ歯の多くは、上の前歯が出ているだけではなく、下顎が後ろにあることで、上の前歯との距離が開いている状態です。前歯を後ろへ下げれば、上下の前歯の距離は縮まります。けれど、下顎が後ろにある理由は、そのまま残ります。
歯が原因か、骨格が原因かは、見た目だけでは分かりません。前歯が大きく前に傾いていても、その奥で下顎が後ろにあることもあります。横顔のレントゲン(セファロ)で、上顎と下顎が頭の骨に対してどこにあり、どちらへ向いて育っているのかを測って、区別ができます。
同じ「7mmの出っ歯」でも中身は違います
たとえば「オーバージェットが7mm」の子がいたとします。ただ前歯の距離だけを測っても、「なぜ7mmになったのか」は分かりません。
矯正治療で本当に必要なのは、この「なぜ」を調べることです。
出っ歯を見ると、上の前歯を後ろへ引けば治るように思えます。しかし、横顔をよく見ると、上が出ているというより、下顎が後ろにあることで上が前に見えている子どもがいます。
骨格性Ⅱ級と呼ばれる不正咬合では、下顎の後退や上下顎の前後的な不調和が大きな要素になることがあります。
ここで、上の歯だけを後ろへ移動したらどうなるでしょうか。
歯並びとしてのオーバージェットは小さくできるかもしれません。けれど、下顎が後ろにあるという骨格の問題まで、それだけで解決したことにはなりません。
これは、見た目の数字を合わせる治療と、原因を治す治療の違いです。
私たちは「前歯が何mm引っ込んだか」だけではなく、上下顎の位置関係、下顎の角度、上顎の成長方向、舌の位置、鼻と気道まで診ます。前歯は、骨格の上に並んでいるからです。
※RAMPAによる骨格の変化のイメージとしてCG動画はご覧ください。制作上は「過蓋咬合」のイメージですが、「出っ歯(上顎前突)」に見えなくもありません。過蓋咬合に対して、上の歯や顎を引っ込めるという動きはしていません。
「噛み合わせが深い」「歯ぐきが見える」も、顎の位置から起こる
出っ歯と一緒に、こんなことを言われたり、気になったりしていないでしょうか。
噛み合わせが深い(過蓋咬合)
奥歯で噛んだ時に、上の前歯が下の前歯を深く覆い、下の前歯がほとんど見えない状態を「過蓋咬合(かがいこうごう)」といいます。
下顎が後ろにあると、下の前歯は、噛み合う相手である上の前歯の裏側に届きません。歯には、噛み合う相手に当たるまで伸びてくる性質があります。当たる相手のない下の前歯は上へ伸び続け、噛み合わせが深くなっていきます。深くなりすぎると、下の前歯が上の前歯の裏の歯ぐきに当たることもあります。
また、出っ歯には、上の前歯が内側に倒れていて、外からは出っ歯に見えないタイプもあります。この場合も、深い噛み合わせが下顎を後ろへ押し込み、下顎が前に出られない状態になっていることがあります。「出っ歯ではないけれど、噛み合わせが深いと言われた」という場合も、下顎の位置を確かめる意味は同じです。
笑うと歯ぐきが見える(ガミースマイル)
笑った時に上の歯ぐきが大きく見える状態が、ガミースマイルです。唇の長さや動き、歯の生え方が関係することもありますが、骨格から見ると、上顎が下へ下がって育っていることが少なくありません。
上顎が下がると、その下にある下顎も一緒に下がり、後ろへ回ります。顔は縦に長くなり、顎先は後ろへ引けて、出っ歯の形がはっきりしてきます。ガミースマイルと出っ歯は、同じ骨格の変化が、別の形で表に出ていることがあるのです。
また、顔が縦に長く育つと、前歯が深く噛まずに、上下の前歯の間が開く(開咬)こともあります。噛み合わせが深くなるか浅くなるかは、上下の顎がどちらへ回って育ったかで変わります。
私たちが出っ歯・過蓋咬合・ガミースマイルを別々の名前だけで見ない理由
- 上顎が下方へ成長し、上の歯列全体が低い位置にある
- その位置関係の中で下顎が後下方へ適応する
- 深い噛み合わせが加わる
- 前から見れば歯ぐきが見え、横から見れば上顎前突に見える
全ての子どもが、このパターンに当てはまるわけではありません。
しかし、こうした骨格の繋がりを調べずに「前歯だけ」を治療することには、私たちは疑問を持っています。
家で確かめられるサイン
- 横から見ると、顎先が後ろに引けている
- 奥歯で噛んだ時、下の前歯がほとんど見えない
- 笑うと、上の歯ぐきが大きく見える
- 口がぽかんと開いていることが多い
- 寝ている時に口が開いている、いびきをかく
- 指しゃぶりや、下唇を噛む癖がある
これらのサインは要注意です。
子どもの出っ歯の原因①|指しゃぶり・唇や舌の癖
歯列にかかる内と外からの圧力バランス。口呼吸によって、舌が上顎から離れることで、このバランスが崩れてしまうことが、口呼吸が原因で歯並びが悪くなる理屈です。
前歯は、内側からは舌に、外側からは唇と頬に押されて、その力がつり合う位置に並びます。このつり合いを、別の原因で崩してしまうのが、口周りの癖です。
指しゃぶり:親指を吸うと、上の前歯は前へ、下の前歯は内側へ押されます。長く続くほど、上の前歯は前に傾き、上の歯列の幅が狭くなることもあります。
下唇を噛む・吸う癖:上の前歯の裏に下唇が入り込むと、上の前歯を前へ、下の前歯を内側へ押す力が、毎日かかり続けます。
舌で前歯を押す癖:飲み込む時に、舌を前歯の間から押し出す癖があると、前歯は前に傾いていきます。
唇が閉じていない:唇は、前歯を外側から支えています。口が開いたままだと、その支えがなくなり、前歯は前へ出やすくなります。
ここで大切なのは、癖をやめさせれば済むとは限らないことです。親御様も試していただけると分かります。これらの「癖」と言われるもののほとんどで舌が上顎につかず、口呼吸の状態に近くなります。
唇が閉じられないのは、鼻で息がしにくいからかもしれません。舌が前に出るのは、上顎が狭く、舌が上に収まる場所がないからかもしれません。癖は出っ歯の原因であると同時に、もっと奥にある原因の結果でもあるのです。
子どもの出っ歯の原因②|下顎が後下方へ回る
骨格が原因の出っ歯を考えるうえで、当院が重視しているのが呼吸です。
鼻で呼吸している時、舌は上顎にぴたりと収まり、上顎を内側から支えます。その支えが、上顎が拡がり、前と上へ育つ力になります。ところが、口で呼吸していると、舌は上顎から離れるため、この力は失われます。
すると、どうなるか——
- 上顎は、舌の支えを失い、横に拡がりにくくなります。前と上への成長も十分に進まず、下へ下がって育つと、ガミースマイルに繋がります。
- 下顎は、口を開けた姿勢が続くことで、顎先が下と後ろへ回るように育ちます(下顎の時計回りの回転)。顎先が後ろへ引けるほど、上の前歯との距離は開き、出っ歯の形になります。
- 下の歯列は、狭い上顎の内側に閉じ込められ、下顎は前へ出たくても出られなくなります。
口呼吸は、起きている間だけの問題ではありません。日中は口を閉じていても、眠ると口が開き、いびきをかいている子どもは少なくありません。眠っている間も、舌は上顎から離れ、下顎は下がったままです。
毎晩何時間も続く夜の口呼吸は、日中には意識できる口呼吸より、骨格の育ち方に長く影響しているかもしれません。
下顎が後ろにあると、下顎についている舌の付け根も後ろへ下がり、喉の空気の通り道を狭めます。口で息をするから下顎が後ろへ下がり、下顎が後ろへ下がるから、空気の通り道がさらに狭くなる。出っ歯は、呼吸と切り離せない歯並びです。
さらに、口呼吸の子どもは、空気の通り道を確保しようとして、頭を前へ突き出す姿勢になりやすく、猫背も重なります。頭が前に出ると、下顎はさらに後ろへ引かれます。
こうして見ると、出っ歯、噛み合わせが深い、歯ぐきが見える、口がぽかんと開く、顔が縦に長い——これらは別々の悩みではなく、上顎と下顎がどちらへ育ったかという一本の線で繋がっているとも言えます。
子どもの出っ歯で困ること|見た目だけではない
出っ歯の相談は、横顔や口元の見た目から始まることがほとんどです。けれど、困ることは見た目だけではありません。
見た目の問題として先送りにせず、何が起きているのかを一度確かめておくことをお勧めします。
前歯のけが:前歯が前に出ている子どもは、転んだりぶつかったりした時に、前歯を折ったり欠いたりしやすくなります。上下の前歯の距離が3mmを超える子どもは、3mm未満の子どもに比べて、前歯のけがのリスクがおよそ2倍になると報告されています[2]。
口が乾く:唇が前歯を覆いにくく、口が開いている時間が長くなります。口の中が乾くと、唾液で守られにくくなり、歯ぐきの炎症やむし歯の原因になることがあります。
前歯で噛み切れない:上下の前歯が離れているため、麺や葉物野菜を前歯で噛み切りにくく、奥歯や舌で補う食べ方が癖になることがあります。
眠りと呼吸:出っ歯の原因に、下顎が後ろにある骨格と口呼吸があれば、空気の通り道も狭くなりがちです。いびきや、寝ている間の口呼吸として表れることがあります。
子どもの出っ歯は自然に治る?
乳歯から永久歯への生え変わりの時期には、前歯の傾きや噛み合わせの深さが変わることがあります。指しゃぶりをやめたあとに、前歯の傾きが少し戻ることもあります。
けれど、下顎が後ろにある、上顎が下へ育っている、といった骨格の向きが、成長を待つだけで逆向きに変わることは期待しにくいものです。口呼吸や舌の位置といった原因が残っていれば、成長はその向きのまま進みます。
成長は、待っていれば正しい方向へ進むものではなく、その時の呼吸と舌と姿勢に従って進みます。
子どもの出っ歯の治療はいつから?
「永久歯が生え揃ってから考えましょう」と言われることもあると思います。歯を並べることが目的なら、それも一つの考え方です。
けれど、出っ歯の原因が骨格と呼吸にあるなら、考えるべきは歯が生え揃う時期ではなく、骨格が育つ時期です。上顎の成長は早い時期に進み、下顎はそのあと、思春期にかけて大きく育ちます。下顎が大きく育つ前に、上顎の向きと舌の位置と鼻呼吸を整えておけるかどうか。これが、出っ歯の治療の時期を考えるうえでの分かれ目です。
現状がどうあるかに関わらず、生え揃う前であっても一度相談してみてください。悪くなってしまってから相談しては、治療が前提になります。本格的に悪くなる前でしたら、別の対処があるかもしれません。
当院では、乳歯の時期から、口呼吸・舌の位置・顎の形を診ています。治療を始めるかどうかは別として、「今、どちらへ育っているのか」を知っておくことに、早すぎるということはありません。
子どもの出っ歯の治療|どこに力をかけるかで3つに分かれる
出っ歯の治療は、装置の名前で比べると分かりにくくなります。どこに力をかけ、何を動かそうとしているのかで分けると、違いがはっきりします。
| 治療 | 力をかける場所 | 主に変えるもの |
|---|---|---|
| 前歯を後ろへ下げる | 上の前歯 | 上下の前歯の距離 |
| 下顎を前へ誘導する | 下顎 | 下顎の位置と前歯の傾き |
| 上顎から整える | 上顎 | 上顎の位置から下顎の位置 |
1. 前歯を後ろへ下げる
ワイヤー矯正やマウスピース型のアライナーで、上の前歯を後ろへ下げる方法です。前歯の出っ張りが大きい場合には、スペースを作るために永久歯を抜いて、前歯を下げることもあります。
上下の前歯の距離は縮まります。けれど、下顎が後ろにあることが原因の出っ歯では、下顎の位置はそのままです。後ろにある下顎に合わせて、上の前歯を後ろへ下げる治療となります。
また、抜歯でできたスペースを使って前歯を大きく下げる場合には、口元が下がって横顔の印象が変わり、舌が使える口の中の空間が小さくなる可能性もあります。前歯の位置だけでなく、その奥の舌と呼吸の居場所まで含めて考える必要があります。
2. 下顎を前へ誘導する
下顎を前に出した位置で噛ませる装置(機能的矯正装置)を使い、下顎を前へ誘導する方法です。取り外し式の装置のほか、マウスピース型の装置もあります。
下顎が後ろにあるという原因に目を向けている点で、前歯を下げる治療とは考え方が違います。ただ、下顎がどこまで骨格として前へ育ち、どこまでが歯の傾きの変化なのかは、研究でも評価が分かれています。また、下顎を前へ誘導しても、上顎が狭く、下へ下がったままでは、下顎が前に出ていられる場所がありません。
3. 上顎から整える(ランパセラピー)
当院が行っているランパセラピー(RAMPA)は、上顎を前と上へ引き出す治療です。出っ歯の治療でありながら、力をかけるのは下顎ではなく上顎です。
なぜ上顎なのか。下顎が後ろ下へ回っているのは、上顎が下へ下がり、舌が上顎に収まらず、口で息をしているからだと当院は考えています。
上顎が前と上へ育ち、鼻の通り道が拡がり、舌が上顎に収まるようになると、下顎は後ろ下へ回る理由を失い、前と上へ回る余地が生まれます。下顎を前へ引っ張るのではなく、下顎が前へ育つ場所をつくる。それが、上顎から出っ歯を考える理由です。上顎が出過ぎているのではありません。下顎が下がっているから相対的に上顎が前に出ているように見えるのです。上顎を「引っ込める」では、治療が逆です。
RAMPAによる鼻腔の拡がりや、頭蓋顔面の成長の変化については、当院院長も共著者として参加した論文で報告しています[3][4]。
「上顎前突」なのに、なぜ上顎を後ろへ下げるとは限らないのか
親御様が最も混乱しやすいところです。
「上顎前突」と診断された。だから、上顎が前に出すぎているのだと思った。
けれど、名称と原因は同じではありません。上顎前突という言葉は、上下の歯や顎の前後関係を表すために使われます。その背景に、下顎の後退が大きく関わっていることもあります。
さらに私たちが見ているのは、前後だけではありません。上顎が「どこにあるか」だけではなく、「どの方向へ育っているか」です。
前後差を小さくするために上顎の成長を抑えるという考え方もあります。実際、従来のⅡ級治療では、上顎の前方成長を抑える作用を利用した治療も行われてきました。近年のレビュー[5]でも、ヘッドギアによる上顎成長抑制や機能的装置による下顎側の変化が評価されています。
一方で、私たちは、上顎自体が十分に発達していない子どもに対して、「上顎をさらに抑えること」が本当にその子の成長にとって正しいのかを考えます。
- 前へ育っていない
- 上へ育っていない
- 鼻腔が狭い
- 口蓋が狭い
- 舌の居場所がない
そういう子どもに必要なのは、単に「上を下に合わせる」ことではないと考えています。上下の数字を合わせることと、顔面骨格全体をより良い方向へ育てることは同じではありません。
上顎の位置を上げれば、下顎は上がってくるのです。
前歯の位置より先に、下顎がなぜ後ろにあるのか
子どもの出っ歯は、前歯が前に出ている状態に見えます。けれど、その多くには、下顎が後ろにあることが関わっています。
噛み合わせが深い、笑うと歯ぐきが見える、口がぽかんと開く——これらも、上下の顎がどちらへ育ったかという、同じ一本の線の上にあります。
前歯を下げるのか。下顎を前へ誘導するのか。上顎から整えるのか。どの治療を選ぶかの前に、確かめてほしい——その出っ歯は、なぜ起きているのか。
当院では、治療の前に、鼻副鼻腔と気道の容積、上顎と下顎の位置と向き、舌の位置、睡眠中の呼吸などを検査し、原因がどこにあるのかを確かめます。原因が骨格にない場合は、RAMPAもお勧めしません。
「骨格」とは余計な視点ではありません
矯正治療に「骨格」という視点を持ち込むと、大げさに聞こえるかもしれません。
けれど、「顎が小さい」とは何の話でしょうか。「出っ歯」とは何の話でしょうか。「過蓋咬合」「ガミースマイル」とは何の話でしょうか。
矯正治療とは何を治しているのでしょうか。その治療は何を評価し、何を目的にしているのでしょうか。
全てが、子どもたちの未来の話です。
確かに矯正治療は「今すぐ生命」に関わる治療ではありません。ですが、その原因を知った時、歯並びだけでいいとは私たちは思えません。むしろ、歯並びなど二の次でいい。
前歯をきれいに並べることより先に、その子がどの骨格で成長し、どこに舌を置き、どう呼吸していくのか。
私たちは、そこを治療の中心に置いています。
口呼吸と出っ歯の関係——口呼吸は「癖」で終わらせない
口呼吸の子どもに、上顎の狭窄、高口蓋、垂直的な顔面成長、不正咬合が多く見られることは、研究で繰り返し報告されています。一方で、研究方法にはばらつきがあり、単純な因果関係まで確定しているわけではありません。
それでも臨床では、呼吸と顔面成長を切り離して考えることはできません。
- 鼻で呼吸しにくい
- 口を開ける
- 舌が上顎から離れる
- 舌が下がる
- 上顎に舌が収まる空間が不足する
- 口唇が閉じにくくなる
こうした状態が続いている子どもに、「口を閉じる練習だけをしてください」と言っても、原因に届かないことがあります。
舌を上げる場所がないのに、舌を上げてと言う。
鼻が通りにくいのに、鼻で呼吸してと言う。
私たちは、この順序を逆にしたくありません。
- まず、なぜ鼻呼吸が難しいのか
- なぜ舌が上がらないのか
- なぜ顎がその位置にあるのか
私たちはそこから診ます。
私たちは出っ歯の子どもの何を診るのか
当院では、出っ歯という見た目だけで治療方針を決めません。
確認するのは、たとえば次のような項目です。
- 上下顎の前後的位置関係
- 上顎の高さと成長方向
- 下顎の角度と回転方向
- オーバージェット、オーバーバイト
- 歯列の幅と萌出スペース
- 口蓋の形
- 鼻副鼻腔の容積
- 上咽頭を含む気道の形態
- 舌位
- 頭位、頚椎
- 口唇閉鎖
- 睡眠中の呼吸
- 鼻腔通気度
なぜここまで見るのか。出っ歯だけを治したいからではありません。「なぜ出っ歯になったのか」を知りたいからです。
原因を知らなければ、治療のゴールも決められません。
RAMPAによる気道容積の変化イメージ
RAMPAによる鼻副鼻腔容積の変化イメージ
出っ歯(上顎前突)で、よくある質問
前歯を引っ込めれば、横顔はきれいになる?
前歯を後ろへ動かせば、口元が下がることはあります。それ自体が悪いわけではありません。歯性の突出が主因であれば、必要な治療です。
問題は、骨格性の問題を歯の移動だけで補償した時です。
- 下顎が後ろにある
- 上顎が下がっている
- 舌が低い
- 鼻呼吸が安定しない
その状態で、前歯だけがきれいに並び、オーバージェットだけが減った。それで「治った」と言えるでしょうか。
私たちは、歯並びがきれいになることを否定しているのではありません。何を治した結果、歯並びがきれいになったのか知りたいのです。
マウスピースで出っ歯は治せる?
透明なアライナーでも、前歯を後ろへ動かしたり、歯列を整えたりすることはできます。ただし、そこで大事なのは、「出っ歯が治せるか」ではなく、「出っ歯の原因を治せるか」です。
原因が上の前歯の傾きにあるなら、歯を動かす治療は合理的です。しかし原因が、以下にあるなら話は別です。
- 下顎の後退
- 深い噛み合わせ
- 上顎の下方成長
- 狭い上顎
- 鼻呼吸の困難
- 低位舌
前歯が後ろへ動いたことと、原因が改善したことは同じではありません。
「この装置でも骨格は多少変わります」と説明されることがあるかもしれません。しかし、何かが動いたことと、その子に必要な骨格変化を評価し、必要な方向へ起こしたことは別です。
治療は「動いたか」ではなく、「何を狙って、どの方向へ、どこまで変えたか」で考えるべきです。
ツインブロックなどの機能的装置はどう考える?
骨格性Ⅱ級に対して、ツインブロックなどの機能的矯正装置が使われることがあります。
2026年のアンブレラレビュー[5]では、取り外し式機能的装置、とくにツインブロックでANB、SNB、下顎長などに比較的一貫した骨格的変化が報告されています。ただし、変化量は大きくなく、エビデンスの確実性は主として低いと評価されています。
ここでも私たちが知りたいのは、「骨格が動いたか」だけではありません。
- 上顎はどうなったのか
- 下顎はどの方向へ変わったのか
- 鼻腔や口蓋はどうなったのか
- 舌の位置はどうなったのか
- 呼吸はどう変わったのか
下顎を前へ誘導することと、上顎骨格を前と上へ育てることは、同じ治療ではありません。
拡大すれば出っ歯も治る?
上顎が狭い子どもに拡大治療が行われることがあります。
横幅が不足しているなら、横方向の拡大が必要なことがあります。しかし「横へ拡げること」と「前後的な骨格関係を治すこと」も同じではありません。
2025年のシステマティックレビュー[6]では、成長期のⅡ級症例に対する上顎拡大は、オーバージェットや臼歯関係にわずかな改善を示した一方、骨格的な前後関係には明確な改善が認められませんでした。
- 横の問題には横の治療
- 前後の問題には前後の評価
- 上下方向の問題には上下方向の評価
顎は三次元です。一方向の変化だけを見て、「顎が育った」とまとめてしまわないことが大切です。
参考文献:
[1] McNamara JA Jr. Components of Class II malocclusion in children 8–10 years of age. Angle Orthod. 1981;51(3):177-202.
https://doi.org/10.1043/0003-3219(1981)051<0177:COCIMI>2.0.CO;2
[2] Nguyen QV, Bezemer PD, Habets L, Prahl-Andersen B. A systematic review of the relationship between overjet size and traumatic dental injuries. Eur J Orthod. 1999;21(5):503-515.
https://doi.org/10.1093/ejo/21.5.503
[3] Moshfeghi M, Mitani Y, Okai-Kojima Y, Choi B. Impact of RAMPA Therapy on Nasal Cavity Expansion and Paranasal Drainage: Fluid Mechanics Analysis, CAE Simulation, and a Case Study. Biomimetics. 2026;11(1):5.
https://doi.org/10.3390/biomimetics11010005
[4] Mitani Y, et al. RAMPA Therapy: Effects on Craniofacial Growth Assessed by Coben Analysis. J Clin Med. 2026;15(5):1882.
https://doi.org/10.3390/jcm15051882
[5] Mundhe M, Bhattacharjee A, Tewari N, Khanna R, Singh RK. Non-surgical treatment of skeletal Class II malocclusion in children and adolescents: an umbrella review. Eur J Orthod. 2026;48(3):cjaf109.
https://doi.org/10.1093/ejo/cjaf109
[6] Cannatà D, Galdi M, Scelza C, Simeon V, Giordano F, Martina S. Impact of maxillary expansion on the sagittal skeletal and dental parameters of growing Class II patients: a systematic review with meta-analysis. Orthod Craniofac Res. 2025.
https://doi.org/10.1111/ocr.12852
あわせて読みたい大切なコラム——
カテゴリー:
SNSでシェアする
この記事を書いた人
院長:岡井有子
大阪歯科大学大学院歯学研究科修了:歯学博士
医療法人社団セントワ理事長
所属学会
- 日本小児歯科学会
- 日本小児耳鼻咽喉科学会
- 日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会
- 日本ダウン症学会
所属研究会
- RAMPA研究会
- 歯科保健医療国際協力協議会
- 赤ちゃん歯科ネットワーク
2025年学会発表抜粋
- European Conference on Dentistry and Oral Health
- MENA Congress for Rare Diseases
- CMBBE
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
新着コラム



