コラム
口呼吸と鼻呼吸の違い|空気の入り口が違うだけではありません——「口呼吸を鼻呼吸へ変える方法」
口呼吸とは口で息をしていること 鼻呼吸との違いは、舌が上顎に収まっているかどうか
口を閉じなさい——鼻で息をしてね——
何度言っても、またお口がポカンと開いている。大人でも、意識している間は鼻で息ができるのに、気を抜くと口呼吸に戻ってしまう——そんな経験はないでしょうか。
口呼吸と鼻呼吸の違いは、空気が口から入るか、鼻から入るか。多くの解説はそこから始まります。
けれど、それだけなら「口を閉じれば治る」はずです。
そう簡単にいかないのは、口呼吸の原因がもう一段深いところにあるからです。
口呼吸とは、口で息をしている状態であると同時に、舌が上顎に収まっていない状態です。そして、舌が上顎に収まれないことには、多くの場合、骨格という理由があります——
口呼吸とは、口で息をしていること——そして舌が上顎に収まっていないこと
鼻呼吸とは
鼻呼吸とは、鼻から吸って、鼻から吐く呼吸です。この時、唇は軽く閉じ、舌は上顎(お口の天井)にぴったりと収まっています。舌が上顎に収まっていることで、口の中は塞がり、空気の通り道は自然と鼻だけになります。
口呼吸とは
口呼吸とは、息の全部、あるいは一部を口でしている状態です。日中にお口がポカンと開いている、寝ているときに口が開いている、いびきをかく——いずれも口呼吸のサインです。
この時、舌は上顎から離れ、下がっています。舌が下がると口の中に空間ができ、空気は口からも出入りできるようになります。
つまり、鼻呼吸と口呼吸を分けているのは、口が開くかどうかよりも先に舌の位置です。舌が上顎にない状態を「低位舌」と呼びますが、私たちは、低位舌とはほぼ口呼吸のことだと捉えています。
口呼吸は、珍しいことではありません
全国の3〜12歳の子ども3,399人を対象にした調査では、「日中、口が開いていることが多い」子どもは30.7%でした。割合は年齢とともに増え、3歳では約2割、12歳では約4割に達していました[1]。
口呼吸は、子どもの3人に1人に見られる、ごく身近な問題です。そして「成長すれば治る」どころか、年齢が高いほど多いことが統計では示されています。
口呼吸をしている人の特徴——チェックリスト
日中の様子のチェックリスト
□ 気が付くと口が開いている
□ 口を閉じると顎の先に力が入る
□ 唇が乾燥しやすい
□ 食事中にくちゃくちゃと音を立てる
□ 食べる時に飲み物で流し込む
□ 発音しにくそうな言葉がある
□ 猫背になりやすい
睡眠中の様子のチェックリスト
□ 寝ている時に口が開いている
□ いびきをかいて寝ている
□ 寝相が非常に悪い
□ 朝起きた時に口が乾いている
□ 寝ても疲れが取れていなさそうに見える
□ 日中に眠そうにしている
鼻の状態のチェックリスト
□ 鼻づまりが多い
□ 鼻炎やアレルギーがある
□ 風邪をひいていないのに鼻がつまりやすい
□ 鼻をよくすする
□ 鼻はつまっていないのに口で息をしているように見える
お口や歯並びの状態のチェックリスト
□ お口ポカンが日常
□ 歯並びがガタガタしている
□ 出っ歯・受け口の兆しがある
□ 上の前歯が見えやすい・ガミースマイル
□ むし歯や歯肉炎を繰り返す
チェックがついた項目はありましたか?
いくつ当てはまるかで「口呼吸かどうか」が決まるわけではありません。ただ、これらのサインは口呼吸の可能性を示す重要なシグナルです。
口呼吸は、単なる悪癖ではなく——
- 鼻づまりやアレルギーの問題
- 扁桃やアデノイドの問題
- 顎や顔面骨格の構造の問題
など、何かしらの要因が関係していることがほとんどです。
だからこそ、気を付けていただきたいのが「様子を見ることのリスク」です。
口呼吸が続くと、歯並びだけでなく、顔の骨格自体の成長にも影響が及ぶ可能性があります。骨格の問題へと進展してしまうと、自然によくなる理屈はまずなくなります。
1項目でも「気になる」と感じたら、様子見をせず、医療と現状を把握することが、お子様の将来にとって大きな差になります。
鼻呼吸と口呼吸の違い——空気の入り口の違いだけではありません
| 鼻呼吸 | 口呼吸 | |
|---|---|---|
| 空気の入り口 | 鼻 | 口(または口と鼻の両方) |
| 舌の位置 | 上顎にぴったり収まっている | 上顎から離れ、下がっている(低位舌) |
| 吸い込む空気 | 鼻の中で温められ、湿り気を帯び、ほこりや細菌がこし取られる | 冷たく乾いた空気が、そのまま喉へ入る |
| 一酸化窒素 | 副鼻腔でつくられる一酸化窒素を一緒に吸い込む | 鼻を通らないため、ほとんど吸い込まれない |
| 口の中 | 唾液で潤っている | 乾きやすく、むし歯・歯肉炎・口臭が起きやすい |
| 上顎の成長 | 舌が内側から上顎を支え、前と上へ育つ力がかかる | 舌の支えがなく、上顎が狭く、下がりやすい |
| 睡眠 | 静かで深い眠りになりやすい | いびきや、眠りの浅さに繋がりやすい |
| 顔つき | 顔の縦横のバランスが保たれやすい | 下顎が後ろ下方へ回り、顔が縦に長くなりやすい |
こうして並べると、鼻呼吸と口呼吸の違いは「空気の通り道の違い」と片付けていい問題ではないことが分かります。
鼻呼吸のメリット——鼻は、呼吸のための器官
空気を整えるフィルターになる
鼻の中は、細かな毛や粘膜、入り組んだ構造で、吸い込んだ空気を温め、湿らせ、ほこりや細菌をこし取ります。肺にとって、鼻を通った空気は「準備の整った空気」です。
一酸化窒素を一緒に吸い込める
鼻の奥にある副鼻腔では、一酸化窒素(NO)が作られています。鼻から息を吸うと、この一酸化窒素が空気と一緒に肺へ運ばれます。口呼吸と比べた研究では、鼻呼吸のほうが肺の血管の抵抗が下がり、血液に取り込まれる酸素が増えることが報告されています[2][3]。同じ空気を吸っていても、鼻を通るか口を通るかで、身体への届き方が変わるということです。
舌が上顎を支え、顔の骨格が育つ
鼻呼吸では、舌は上顎に収まっています。舌は、上顎を内側から支え、押し広げる存在です。子どもの成長期には、この舌の支えが、上顎を本来の方向——前と上——へ育てる力になります。鼻呼吸は、呼吸の方法であると同時に、顔の骨格を育てる条件でもあるのです。
眠りが静かで深くなる
舌が上顎に収まり、鼻で静かに呼吸ができていれば、喉の奥の通り道も保たれやすくなります。いびきや、眠りの途中で呼吸が乱れることも少なくなり、眠りそのものの質が守られます。
口呼吸の弊害——口呼吸はなぜ危険なのか
口の中が乾き、むし歯や歯肉炎が起きやすい
口で息をすると、口の中が乾きます。唾液には、汚れを洗い流し、細菌の増殖を抑える働きがあります。その唾液が乾いてしまえば、むし歯や歯肉炎、口臭が起きやすくなります。
眠りが浅くなる
口呼吸の子どもは、いびきをかきやすく、眠りが浅くなりがちです。睡眠中の呼吸の乱れは、朝起きられない、日中ぼんやりする、集中が続かないといった形で、日中の生活にも表れます。
上顎が育たず、歯並びと噛み合わせが崩れる
口呼吸の最大の問題は、成長期の骨格に及ぶ影響です。舌が上顎を支えないまま成長すると、上顎は前にも横にも上にも十分に育ちません。
・ アレルギー性鼻炎で口呼吸が続いている8歳前後の子どもでは、鼻呼吸の子どもと比べて、口蓋(上顎の天井)の面積が13.5%、容積が27.1%小さかったと報告されています[4]。
・ 矯正治療を受けに来た子ども116人を比べた研究では、口呼吸の子どもは、下顎が後ろ下方へ回転し、歯列が狭く、奥歯の噛み合わせが横にずれる交叉咬合が多い(49%対26%)という特徴がありました[5]。
上顎が育たなければ、歯が並ぶ場所が足りなくなります。私たちの医院では、その結果として、歯がガタガタに並ぶ叢生、受け口、噛み合わせが深くなる過蓋咬合を多く見ています。歯並びの乱れは、多くの場合、口呼吸と骨格の問題が表に出てきた「結果」なのです。
顔つきが変わる
上顎が下がり、下顎が後ろ下方へ回転すると、顔は縦に長くなり、口元がゆるんだ印象になります。いわゆる「アデノイド顔貌」と呼ばれる顔つきです。
口呼吸になる原因——「癖」や「筋力」で片付けない
口呼吸の原因としてよく挙げられるのは、鼻づまり、口を開ける癖、口周りの筋力不足です。ただ、それだけでは「なぜ治らないのか」が説明しきれません。私たちは、口呼吸の原因を次のように考えています。
原因1:鼻の通りが悪い
アレルギー性鼻炎や、アデノイド・扁桃の腫れで鼻の通り道が塞がれていれば、口で息をするしかありません。これは耳鼻科で診てもらうべき大切な原因です。
ただし例えば、同じ大きさの腫れでも、鼻がつまる子とつまらない子がいます。鼻づまりと感じられるかどうかは、腫れの大きさと、鼻(空気の通り道)の「器」の大きさとの比で決まります。
そもそもの構造が狭くなってしまっていれば、仮にアデノイドの問題が解消しても、子どもの体感は変わらないこともあります。逆に言えば、多少の腫れがあっても通り道がまだ残っているならば、鼻呼吸は可能なのです。「アデノイドが腫れている」では理由としてまだ足りません。
ですが、大切なことです。耳鼻科へ行ってもレントゲンで鼻腔の通気性(容積:広さ)を積極的に測ることは通常ありません。歯科でも同様です。鼻の通り道の広さは「検査の空白」なのです。
コラム:「成長発達総合歯科」|子どものかかりつけ歯科を選ぶということ→
原因2:舌の「居場所」がない
舌が上顎に収まるには、上顎に舌が収まるだけの広さが必要です。上顎が狭い——そうなると、舌は上がりたくても上がれません。舌が下がれば、口は開き、口呼吸になります。
ここで大切なのは、舌が上がらないのは「舌の力が弱いから」ではないということです。口を閉じられないほど、舌を上げられないほどの筋力不足は、病気でもない限り考えにくいものです。問題は力ではなく、舌の居場所です。
原因3:姿勢と舌骨
舌の根元は、喉にある「舌骨」という骨に繋がっています。舌骨は、首や肩の筋肉に支えられて位置が決まっています。猫背で頭が前に出る姿勢や、赤ちゃんの抱っこの姿勢などで首周りの筋肉が緊張すると、舌骨が下に引かれ、舌も一緒に下がります。
原因は、ひとつの輪になっている
姿勢が崩れて舌骨と舌が下がる。舌が上顎を支えていないので、上顎が前にも横にも上にも育たない。上顎が育たないので、舌の居場所がさらになくなる。舌が下がったままなので、口呼吸が続く——
口呼吸の原因は、どれか一つではなく、この輪の中にあります。だから、口を閉じる、鼻を通す、といった一か所への働きかけだけでは、輪が止まらない——そして最後は構造そのものが問題になる場合が多いのです。
赤ちゃんの離乳が早いと口呼吸になるの?
赤ちゃんは授乳中、鼻でしか呼吸ができないので「離乳が早いと口呼吸を習慣化させる」と指摘されることがあります。これでは言葉が足りません。
授乳とは、赤ちゃんがお口を鍛えるためのトレーニングです。ここで大切なのが、正しい舌の使い方。ただ、授乳をしていればいいのではなく、正しい授乳の仕方を知っておく必要があります。
離乳が早いことではなく、きちんとした舌のトレーニングができていないことが口呼吸の一因です。
おしゃぶりについても注意が必要です。鼻呼吸促進と謳われている商品もありますが、ただ咥えているおしゃぶりと授乳は違います。おしゃぶりが鼻呼吸を促進する根拠は薄いです。単に口を塞がれているから鼻呼吸しかできないだけで、それでは「舌が上顎についていない状態の形だけの鼻呼吸」であって、鼻呼吸の意味を理解していません。
上顎についた舌(この場合、鼻呼吸しかできません)が、鼻呼吸のための正しい骨格を育てます。
口呼吸(いびき)は脳の発達にも影響するの?
ここではいびき・睡眠時無呼吸に関する重要な論文記事をご紹介します。
記事はリンク先ページを自動翻訳したものの転載です。いびきや睡眠時無呼吸のリスクについての研究論文の抜粋です。発表に関して、当院やRAMPAとの直接のつながりはありません。子どもたちが直面している問題について、知識として知ってほしいと願い、転載しています。表示上、一部調整しています。
この発見は、いびきや睡眠障害が不注意、多動、攻撃性などの行動上の問題と関連している理由を説明できるかもしれない
定期的にいびきをかく子どもは、脳の構造変化がみられ、それが集中力の欠如、多動性、学校での学習障害など、いびきに関連する行動上の問題の原因となっている可能性がある。これはメリーランド大学医学部(UMSOM)の研究者らが実施した新しい研究で判明したもので、本日、Nature Communications誌に掲載された。
この研究は、国立薬物乱用研究所(NIDA)と国立衛生研究所の他の 9 つの研究所、センター、オフィスによって支援されました。
この研究を行うために、研究者らは、思春期の脳認知発達 (ABCD)研究に参加した 9 歳から 10 歳の子ども10,000 人以上から収集した MRI 画像を調べました。これは米国における脳の発達と子どもの健康に関する最大規模の長期研究であり、UMSOM の研究者らはこの進行中の研究の共同研究者です。
研究者らは、親の報告によると定期的に(週 3 回以上)いびきをかいていた子どもは、脳の前頭葉のいくつかの領域で灰白質が薄くなる傾向があることを発見しました。脳のこれらの領域は、高度な推論能力と衝動制御を担っています。これらの領域の皮質が薄くなることは、睡眠時無呼吸症候群と呼ばれる重篤な睡眠障害に関連する行動障害と相関しています。これらの行動障害には、集中力の欠如、学習障害、衝動的な行動が含まれます。いびきをかくと、呼吸が中断され、脳への酸素供給が減少するため、一晩中睡眠が妨げられます。
「これは、いびきと脳の異常との関連性を詳細に調べたこの種の研究としては最大規模です」と、UMSOM の耳鼻咽喉科・頭頸部外科および小児科の准教授で、研究の筆頭著者である アマル・イザイア医学博士は述べています。
「これらの脳の変化は、注意欠陥多動性障害の子どもに見られるものと似ています。子どもは認知制御を失っており、それがさらに破壊的な行動と関連しています。」
アメリカの子どもの最大10パーセントが閉塞性睡眠障害を患っており、かなりの割合がADHDと誤診され、刺激薬で治療されています。
イザイア博士は親たちに次のようなアドバイスをしました。「週に2回以上いびきをかいている子どもがいる場合、その子どもを検査する必要があります。現在、脳画像診断による強力な構造的証拠があり、子どもの睡眠障害の診断と治療の重要性が強調されています。」
この症状は扁桃腺摘出術とアデノイド切除術で治療することができ、いびき、睡眠中の呼吸停止、口呼吸などの症状がある小児の第一選択治療と考えられています。
※以下の文のみ加筆しています。
"この点に関して、アデノイドの肥大等が直接的な要因であるのならば、手術は第一選択かもしれません。しかし、そうではない要因を抱える子どもたちも少なくありません。成長発達期にある子どもであれば、手術ではなく、RAMPAが第一選択となりうるのではないかと考えています。"
「脳は、特に子どもの場合、自己修復能力があることが分かっています。そのため、閉塞性睡眠障害呼吸を適時に認識し治療することで、脳の変化を軽減できる可能性があります。これらの関係のメカニズムを検証するには、さらなる研究が必要であり、それによりさらなる治療アプローチも生まれる可能性があります」と、 ABCD研究の共同主任研究者で、診断放射線学および核医学の教授であり、研究の共著者であるリンダ・チャン医学博士は述べています。
研究者らは、いびきをかき続けた子どもたちのMRI検査で脳の所見が悪化したかどうかを調べるために追跡調査を行う予定です。
「この一般的な症状が子どもの神経発達に及ぼす影響を測定する脳画像診断の証拠が初めて確認されました」とメリーランド大学ボルチモア校の医療担当執行副学長、ジョン・Z・アキコ・K・バウワーズ特別教授、メリーランド大学医学部学部長のE・アルバート・リース医学博士、経営学修士は述べています。
「これは子どものいびきの異常を適切に診断する必要性を強調する重要な発見です。」
鼻呼吸を意識しても続かないのはなぜか
「鼻呼吸を意識してください」。口呼吸の解説の多くは、そう勧めています。けれど、意識している間はできても、気を抜くと口に戻ってしまう。眠っている間は、意識することさえできません。
本来、鼻呼吸は意識してするものではありません。舌が上顎に収まり、鼻の通り道が確保されていれば、人は何も考えなくても鼻で息をします。生まれたばかりの赤ちゃんが、誰にも教わらずに鼻で呼吸しているのと同じです。
裏を返せば、「意識しないと鼻呼吸ができない」「続かない」のは、意志や努力の問題ではなく、身体の構造が鼻呼吸に合っていないサインです。舌の居場所が足りない、鼻腔・副鼻腔が狭い——そうした理由があるなら、意識だけで変えるのは難しいのです。
よく勧められる改善方法と、その限界
口呼吸の改善方法として、よく紹介されているものがあります。それぞれに意味がないわけではありません。ただ、何を変えようとしている方法なのか、そして何は変えられないのかは、それぞれにあります。
口を閉じる意識・練習
口を閉じる意識を持つことは、口呼吸に気付くきっかけになります。ただし、お伝えしたように、意識は眠っている間には働きません。構造が原因なら、意識だけで続けるのは難しい方法です。
口テープ(マウステープ)
寝るときに口にテープを貼る方法は、手軽さから広まっています。けれど、これまでの研究をまとめたシステマティックレビューでは、10件の研究・213人を調べた結果、口テープが口呼吸や睡眠中の呼吸障害を改善するという根拠は乏しいと結論づけられました。さらに、鼻づまりや扁桃の腫れなどで鼻の通りが悪い人では、窒息につながる危険があると指摘されています[6]。
鼻で息ができない理由があるのに口を塞ぐことは、勧められません。
あいうべ体操・舌のトレーニング(MFT)
口のまわりの筋肉や舌を動かす体操やトレーニングは、「筋力が足りないから口が開く」という考え方に基づいています。けれど、私たちは、口を閉じられないほど、舌を上げられないほどの筋力不足は、病気でもない限り考えにくいと考えています。
舌が上がらない原因が居場所——上顎の骨格——にあるなら、どれだけ舌を鍛えても、上がってつくべき場所に届きません。
トレーニングに役割があるとすれば、それは骨格の問題がないことを確かめたうえで、あるいは骨格を整えたあとに、舌の使い方を覚え直す段階です。順番を間違えると、「頑張っているのに治らない」と、子どもも親も苦しむことになります。
コラム:MFT(口腔筋機能療法)とは|舌も咀嚼筋も鍛えたのに治らない理由→
既存の矯正治療
上顎を横に広げる矯正装置などで、気道が拡がったという報告はあります。ただ、子どもの睡眠時の呼吸障害に対する口腔内装置や矯正装置の効果をまとめたコクランレビューでは、条件を満たした研究は1件・23人のみで、効果を判断するには根拠が不十分とされています[7]。歯並びを整える治療と、呼吸を改善する治療は、同じではありません。
鼻呼吸へ変えるための改善方法
1. 鼻の通りを確かめる
鼻炎やアデノイド・扁桃の腫れなど、鼻の通りを妨げる「耳鼻科的問題の可能性」があれば、耳鼻科で診てもらいます。寝ている間に呼吸が止まっているように見える、中耳炎や扁桃炎を繰り返すといった場合は、まず耳鼻科を受診してください。
2. 舌の位置と、その居場所を確かめる
舌が上顎に収まっているか。収まっていないなら、それは舌の力の問題なのか——上顎の広さと位置、舌の居場所の問題なのかを診ます。
3. 上下顎の骨格と、鼻腔・副鼻腔・気道を確かめる
上顎が前と上へ育っているか。鼻腔や副鼻腔、気道にどれだけの容積があるか。ここは、耳鼻科でも、多くの歯科でも、測られることの少ない部分です。
4. 骨格が原因なら、骨格から整える
子どもの骨格は、成長期なら、育つ方向を変えることができます。上顎を本来の方向——前と上へ育てることを目指す治療が、ランパセラピー(RAMPA)です。上顎を前と上へ育てることを狙った治療法は、私たちの知る限り他にありません。
コラム:ランパセラピーという治療|歯列矯正の外にある「呼吸と骨格」→
5. 姿勢と生活を見直す(骨格に大きな問題がない場合)
頭が前に出る姿勢、首や肩の緊張、赤ちゃんの抱っこの姿勢——舌骨を引き下げる原因があれば、生活の中で整えていきます。
MFTなどの筋肉へのアプローチは、この段階ならば有意義な取り組みです。
赤ちゃん・子ども・大人——年齢で変わること
赤ちゃん
赤ちゃんは本来、鼻で呼吸する生き物です。それでも、首や肩の緊張で舌骨と舌が下がれば、赤ちゃんでも口呼吸は始まります。いびきや、口を開けて寝る様子は、「様子見」ではなく、見直しのサインです。骨格がもっとも柔らかいこの時期は、姿勢や抱っこの見直しで変えられることが多くあります。
子ども
子どもの口呼吸は、骨格が育っている最中の問題です。だからこそ、骨格から整えるという選択肢があります。口呼吸が続いたまま成長期が過ぎれば、上顎は狭く下がったまま固まっていきます。「癖だから」「成長すれば治るから」と待つ間にも、骨格は育ち続けています。
大人
大人になると、骨格の成長は終わっています。子どものように、骨格が育つ方向を変えることはできません。鼻の治療で通りがよくなる場合もありますが、舌の居場所や鼻腔や副鼻腔の広さが足りないことが原因なら、選べる方法は限られます。骨格を育てられる時間は、子どものうちにしかありません。子どもの口呼吸に早く向き合ってほしいのは、そのためです。
よくある質問
鼻呼吸と口呼吸、どちらがいいですか?
鼻呼吸です。鼻を通った空気は温められ、湿り、ほこりや細菌がこし取られ、副鼻腔でつくられる一酸化窒素も一緒に肺へ届きます。さらに鼻呼吸のときは舌が上顎に収まっていて、成長期の子どもでは上顎の骨格を育てる力にもなります。
一番いい呼吸法は何ですか?
特別な呼吸法より、意識しなくても自然に鼻で呼吸できている状態が一番です。唇が軽く閉じ、舌が上顎に収まっている。この状態が、睡眠中も保たれていることが理想です。
鼻呼吸の正しいやり方・練習方法は?
唇を軽く閉じ、舌全体を上顎にぴったりつけたまま、鼻からゆっくり吸って吐きます。ただし、鼻呼吸は本来、練習して身につけるものではありません。練習しないとできない、続かないのであれば、舌の居場所や鼻の通り道に理由がないかを確かめることが先です。
鼻呼吸が続かない・意識しないとできないのはなぜですか?
多くの場合、意志の問題ではなく、呼吸の構造が鼻呼吸に合っていないためです。口呼吸では舌が下がり、舌自体が気道を狭くさせ、酸素の摂取効率も下がります。身体は息苦しいので量でカバーしようと口を開けてしまいます。だから口呼吸は癖になります。その後は、骨格の変化により鼻の通り道が狭くなることが理由になります。意識しないとできないこと自体が、構造を確かめてほしいサインです。
呼吸が浅いかどうか、チェックする方法は?
じっとしているときに、口が開いていないか、肩や胸だけが上下していないかを見てみてください。鼻で静かに息をしていれば、お腹のあたりがゆっくり動きます。
口が開いている、呼吸のたびに肩が上がる、寝ているときに呼吸の音が大きいといった様子があれば、口呼吸を疑ってみてください。鼻呼吸がスムーズにできていないので身体全体で呼吸するような動作になる場合があります。鼻息の荒いような呼吸も似た現象です。
口呼吸をしている人の特徴は?
お口がポカンと開いている、唇が乾きやすい、口を開けて寝る、いびきをかく、口を開けたまま食べる、猫背で頭が前に出ている、などです。歯並びでは、叢生や受け口、噛み合わせの深い過蓋咬合が見られることがあります。
口呼吸の人がうるさいと言われるのはなぜですか?
口で息をすると、寝ているときのいびきや寝息が大きくなりやすく、食べるときにも口が開いたまま噛むので音が立ちやすくなります。本人の気配りの問題ではなく、口が閉じにくい状態——多くは舌の位置と骨格——が背景にあります。
口呼吸で顔つきが変わると言われるのはなぜですか?
成長期に口呼吸が続くと、舌が上顎を支えないため上顎が下がり、それに合わせて下顎が後ろ下方へ回転します。その結果、顔が縦に長くなり、口元がゆるんだ印象になることがあります。顔立ちの良し悪しではなく、骨格の育ち方の問題です。
口呼吸になる原因は何ですか?
鼻づまりやアデノイド・扁桃の腫れのほか、舌が上顎に収まる居場所がないこと、姿勢の崩れで舌骨と舌が下がることが挙げられます。これらは互いに繋がっていて、一つの輪のように口呼吸を続けさせます。
口呼吸はなぜ危険なのですか?
口の中が乾いてむし歯や歯肉炎が起きやすくなり、眠りも浅くなりがちです。成長期の子どもでは、上顎が十分に育たず、歯並びや噛み合わせ、顔つきにまで影響します。
子どもの口呼吸は自然に治りますか?
子どもは骨格が育っている最中なので、原因を確かめることが最優先です。ただし、口呼吸の子の割合は年齢とともに増える傾向があり、成長期が過ぎれば骨格は固まっていきます。様子見は、自然に治ることに「賭けている」ことを忘れないでください。
口呼吸は「入り口」の違いではなく「舌の居場所」の問題
鼻呼吸と口呼吸の違いは、空気が鼻から入るか、口から入るかだけではありません。舌が上顎に収まっているか、上顎が前と上へ育っているか、空気の通り道の広さは十分か。それらの違いが、鼻か口か——呼吸の通り道を決めています。
口を閉じる意識も、テープも、お口の体操も、口呼吸を改善する手段にはなります。けれど、鼻がきちんと通り、舌の居場所が確保できなければ、口呼吸は戻ってきます。
鼻呼吸は、意識して頑張るものではなく、身体の構造が整ったときに自然に戻ってくるものです。お子様の口呼吸が気になったら、「癖」で片付ける前に、その奥にある骨格を確かめてください。
以下は、当院の治療前検査の主な項目です。
- 鼻副鼻腔容積・気道容積計測=呼吸時の通気性
- ANSとPNSの距離計測=口蓋のひずみ
- S-Nの距離計測(脳頭蓋底のセラ点とナジオン点の距離)
- ゴニアルアングル計測=下顎のひずみ
- 顔の左右差・頭蓋骨の形状確認
- 頭位・舌位・頚椎の形状確認
- 歯の萌出スペース確認
- 睡眠時無呼吸AHI計測・鼻腔通気度計測
- 3Dによる顔貌と口腔内撮影など
学会発表
■ European Conference on Dentistry and Oral Health(パリ)
- クラスIの前方部叢生と喘息および慢性副鼻腔炎を有する患者に対するRAMPA療法の症例研究:CT画像評価
- RAMPA療法によるアントレー・ビクスラー症候群およびダウン症候群患者の上気道容積の増加
■ MENA Congress for Rare Diseases(アブダビ)
- RAMPA療法を用いたダウン症候群患者の治療:頭蓋顎顔面成長誘導法
- RAMPA療法を用いたアーノルド・キアリ奇形患者の治療:頭蓋顎顔面成長誘導法
■ 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- RAMPA療法を受けたダウン症候群児の呼吸症状の改善
■ DownSyndrome(ダラス)
- RAMPA療法を用いたダウン症候群患者の非外科的治療:頭蓋顎顔面成長誘導法
- RAMPA療法による希少疾患患者の呼吸器症状の改善
■ CMBBE(バルセロナ)
- RAMPA療法を用いたアーノルド・キアリ奇形患者の非外科的治療:頭蓋顎顔面成長誘導法
- RAMPA療法によるアントレー・ビクスラー症候群の小児の呼吸器症状の改善
■ 日本鼻科学会
- 非外科的RAMPA療法による患者の気道容積増加に関する統計分析
- RAMPA療法による鼻閉患者の気道容積増加に関する統計分析
論文発表
RAMPA療法:コーベン分析と統計的評価による頭蓋顔面成長への影響
Yasushi Mitani, Yuko Okai-Kojima, Takahisa Shimazaki, Mohammad Moshfeghi, Morio Tonogi, Shouhei Ogisawa, Bumkyoo Choi and Mitsuru Motoyoshi:J. Clin. Med. 2026, 15(5), 1882
RAMPA療法が鼻腔および副鼻腔の体積評価に及ぼす影響:副鼻腔の透過性が良好な患者と混濁した患者における比較統計分析
Yasushi Mitani, Yuko Okai-Kojima, Mohammad Moshfeghi, Morio Tonogi, Shouhei Ogisawa, and Bumkyoo Choi:Oral 2026, 6(1), 8
RAMPA療法が鼻腔拡張と副鼻腔排液に及ぼす影響:流体力学解析、CAEシミュレーション、および症例研究
Mohammad Moshfeghi, Yasushi Mitani, Yuko Okai-Kojima and Bumkyoo Choi:Biomimetics 2026, 11, 5
RAMPA療法:上顎骨の前上方牽引における縫合剛性の影響:有限要素解析(FEA)による検討
Mohammad Moshfeghi, Yasushi Mitani, Yuko Okai-Kojima, Bumkyoo Choi and Peiman Emamy:Oral 2025, 5, 74
症例報告:RAMPAと新規ハイブリッド口腔内装置を併用した顎口蓋複合体の整形外科的治療
Yasushi Mitani, Mohammad Moshfeghi, Noriyuki Kumamoto, Takahisa Shimazaki, Yuko Okai-Kojima, Morio Tonogi, Shouhei Ogisawa, Bumkyoo Choi
参考文献:
[1] Nogami Y, Saitoh I, Inada E, et al. Prevalence of an incompetent lip seal during growth periods throughout Japan: a large-scale, survey-based, cross-sectional study. Environ Health Prev Med. 2021.
https://doi.org/10.1186/s12199-021-00933-5
[2] Lundberg JO, et al. Inhalation of nasally derived nitric oxide modulates pulmonary function in humans. Acta Physiol Scand. 1996;158(4):343-347.
[3] Lundberg JO, Weitzberg E. Nasal nitric oxide in man. Thorax. 1999;54(10):947-952. https://thorax.bmj.com/content/54/10/947
[4] Lione R, Franchi L, Huanca Ghislanzoni L, Primozic J, Buongiorno M, Cozza P. Palatal surface and volume in mouth-breathing subjects evaluated with three-dimensional analysis of digital dental casts—a controlled study. Eur J Orthod. 2014. https://art.torvergata.it/handle/2108/95127
[5] Harari D, Redlich M, Miri S, Hamud T, Gross M. The effect of mouth breathing versus nasal breathing on dentofacial and craniofacial development in orthodontic patients. Laryngoscope. 2010;120(10):2089-2093. https://doi.org/10.1002/lary.20991
[6] Rotenbergらによるシステマティックレビュー(口テープと睡眠時の呼吸障害). PLOS ONE. 2025. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12094774/
[7] Carvalho FR, et al. Oral appliances and functional orthopaedic appliances for obstructive sleep apnoea in children. Cochrane Database Syst Rev. 2016. https://www.cochrane.org/evidence/CD005520_oral-appliances-and-functional-orthopaedic-appliances-obstructive-sleep-apnoea-children
あわせて読みたい大切なコラム——
カテゴリー:
SNSでシェアする
この記事を書いた人
院長:岡井有子
大阪歯科大学大学院歯学研究科修了:歯学博士
医療法人社団セントワ理事長
所属学会
- 日本小児歯科学会
- 日本小児耳鼻咽喉科学会
- 日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会
- 日本ダウン症学会
所属研究会
- RAMPA研究会
- 歯科保健医療国際協力協議会
- 赤ちゃん歯科ネットワーク
2025年学会発表抜粋
- European Conference on Dentistry and Oral Health
- MENA Congress for Rare Diseases
- CMBBE
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
新着コラム
ランパセラピー検査項目解説

