コラム
低位舌とは、ほぼ口呼吸|赤ちゃんと子どもの舌が上がらないのは筋力ではなく「居場所」の話
低位舌|舌を鍛える前に確かめること 子どもたちの舌が上がらない原因は「筋力不足」で正解か
「低位舌」という言葉を、SNSや雑誌で見かけるようになりました。
低位舌とは、舌が正しい位置より下がっている状態のこと。二重顎やたるみ、滑舌、歯並びとの関係がよく語られています。そして、ほとんどの記事が同じ答えを用意しています。
原因は舌の筋力の低下。だから、舌を鍛えましょう——と。
舌を上顎につけるとは、そんなに舌の筋力に依存しているものでしょうか。
本当にそれで正解でしょうか。
おっぱいを吸えて、食べ物を噛めて、おしゃべりができる子どもに、舌を持ち上げる力がない——そう結論づけるのは少し無理がある、私たちはそう考えています。
当院が子どもたちのお口を診ていて感じるのは、舌が上がらないのではなく、つけるためのスペースが足りない、つけたら鼻で呼吸がしづらい、そもそも届きづらい構造——上がった先に舌の居場所がないということです。
低位舌とは何か、なぜ舌が下がるのか、そして舌のトレーニングだけでは変わらないものは何か——
低位舌とは
低位舌とは、舌が上顎(口の中の天井)から離れて、下がった位置にある状態です。
本来、口を閉じて休んでいるとき、舌は上顎にぴったりと吸いつくように収まっています。舌の先は上の前歯の少し後ろ(スポット)、舌の真ん中から奥は上顎の天井に沿って触れている。これが、舌の正しい位置です。
低位舌では、この舌が上顎から離れ、下の歯の内側や口の底の方に落ちています。
低位舌は、ほぼ口呼吸と同じ状態
ここで、当院がもっとも大切にしている考え方をお伝えします。
当院では、口呼吸を「口が開いているかどうか」ではなく、「舌が上顎についているかどうか」で捉えています。舌が上顎にぴったりついていれば、口の中に空気の通り道はありません。息は自然に鼻を通ります。舌が下がれば、口の中に空間が生まれ、空気は口を通りやすくなります。
つまり、低位舌と口呼吸は、同じ状態を「舌の側」から見るか、「呼吸の側」から見るかの違いです。低位舌とは、ほぼ口呼吸のことだといえます。
そう考えると、低位舌は「舌の癖」や「見た目の問題」では済みません。呼吸、そして骨格の成長に関わる問題になります。
子どもの低位舌|おうちでできるチェック
子どもは、自分の舌の位置を言葉で説明できません。次のようなサインがないか、そっと見てみてください。
✅テレビを見ているときや、ぼんやりしているとき、口がポカンと開いている
✅寝ているときに口を開けている、いびきをかく
✅口を閉じると、下の顎(オトガイ)に梅干しのようなしわができる
✅話すときや飲み込むときに、舌が前歯の間から見える
✅サ行・タ行の発音が舌足らずに聞こえる
✅上の歯並びが狭く、V字(三角形)のように見える
一つでも当てはまれば、舌が上顎に収まっていない可能性があります。お口ポカンやいびきは、低位舌がそのまま「口呼吸」として表に出ているサインです。
「舌の筋力不足」という説明への疑問
低位舌について調べると、原因として「舌の筋力の低下」が挙げられ、舌を回す体操や、舌で上顎を押し上げるトレーニングが紹介されています。歯科医師向けの専門誌でも、舌の力(舌圧)を測り、目標の数値に向けて鍛える方法が紹介されています[1]。
舌の使い方を練習すること自体を否定するつもりはありません。ただ、「舌が下がっている=舌の力が足りない」と、そこで考えるのをやめてしまうことには、疑問があります。
子どもの舌は、生まれた直後からおっぱいを吸い、離乳食を押しつぶし、噛み、飲み込み、話すために、毎日休まず働いています。健康な子どもに、舌を上顎まで持ち上げられないほどの筋力不足があるとは、病気でもない限り考えにくいことです。
例外として、舌の裏のひも(舌小帯)が短く、舌が物理的に持ち上がりにくい場合はあります。これは筋力ではなく、構造の問題です。そして、ここにこそ大切なヒントがあります。舌が上がらない理由は、多くの場合、筋肉ではなく構造の側にあるということです。
子どもの舌が上がらない、本当の理由
当院が考える、舌が上顎に収まらない理由は、主に3つです。どれか一つではなく、多くの場合、互いに絡み合っています。
① 上顎が狭く、舌の居場所がない
舌は、上顎の天井のくぼみに収まるようにできています。ところが、上顎の幅が狭く、天井が高く深い形に育つと、舌を持ち上げても、ぴったり収まる場所がありません。収まらない舌は、結局、下に落ちるしかなくなります。
受け口の人と正常な噛み合わせの人を比べた研究では、受け口の人ほど舌の位置が低く、上顎の犬歯の間の幅も狭いことが報告されています。著者らは、舌の位置が上下の顎の歯と骨の形と関連していると結論づけています[2]。(対象は平均19歳前後の若い成人です)
② 舌骨が引き下げられている
舌の根元を支えているのが、のどの辺りにある「舌骨」という小さな骨です。舌骨は他の骨と直接繋がっておらず、首や肩周りの筋肉のバランスで位置が決まる「宙ぶらりん」の骨です。
猫背や、頭が前に出る姿勢が続くと、首や肩の筋肉が緊張し、舌骨は下へ引っ張られます。舌骨が下がれば、それに繋がる舌も下がる。舌をどれだけ鍛えても、根元が下に引かれていれば、舌は上顎まで届きにくくなります。
コラム:子どもの姿勢と歯並び|猫背と口呼吸の負のループが骨格を変える→
③ 鼻で息ができない
鼻の通り道が狭いと、身体は息をするために舌を下げ、口の中に空気の通り道をつくります。舌が下がるのは、怠けているからではなく、呼吸を守るための反応です。
この状態で「舌を上げなさい」と言われても、舌を上げれば息が苦しくなります。子どもの身体が、呼吸より舌の位置を優先することはありません。
低位舌と口呼吸がつくる「負のループ」
3つの理由は、ばらばらに起きているわけではありません。一つの輪のように繋がっています。
- 姿勢の崩れや鼻の通りの悪さから、舌が下がる(低位舌=口呼吸)
- 舌が上顎から離れ、上顎は内側から支えられなくなる
- 上顎が横にも前にも育たず、狭く、下がった形になる
- 上顎と一体の鼻腔も狭くなり、鼻でさらに息がしにくくなる
- 舌の居場所もなくなり、舌はますます上がらなくなる
舌が上顎についていることには、上顎を内側から押し広げ、正しい方向へ育てる「支え」の役割があります。その支えがなくなると、上顎は重力に従って下へ、内側へと成長の向きを変えていきます。
口呼吸と骨格の関係は、研究でも確かめられています。アレルギー性鼻炎で口呼吸が続いている8歳前後の子どもを、鼻で呼吸している子どもと比べた研究では、口呼吸の子どもの口蓋(上顎の天井)の面積は13.5%、容積は27.1%小さかったと報告されています[3]。また、成長期のサルを口呼吸の状態にした実験では、顎が下がり、下顎が後ろへ回転するように育つ変化が見られました[4]。
はじめは「姿勢」や「鼻づまり」といった筋肉や粘膜やリンパ組織(アデノイドや扁桃の肥大)の問題だったものが、上顎が育たない——つまり時間とともに「骨格」の問題に入れ替わっていく。ここに、低位舌が「癖」では済まない理由があります。
低位舌が骨格と歯並びに与える影響
上顎が十分に育たないことで、次のような変化が現れることがあります。
| 現れる変化 | 起きていること |
|---|---|
| ガタガタの歯並び(叢生) | 上顎が十分に育たず、歯が並ぶスペースが足りなくなる |
| 受け口(反対咬合) | 上顎が前に育たず、相対的に下顎が前に見える |
| 顔が縦に長く見える | 上顎が下方向に育ち、下顎も一緒に後ろ下へ回転する |
| 鼻づまり・いびき | 上顎と一体の鼻腔が狭くなり、空気の通り道が細くなる |
| お口ポカン | 舌が収まらず、鼻でも吸いにくいため、口が開く |
歯並びは、この流れの最後に現れる「結果」です。低位舌を舌だけの問題として扱っていると、その奥で進んでいる骨格の変化を見過ごしてしまいます。
舌のトレーニングで変わるもの、変わらないもの
では、舌のトレーニングやMFT(口腔筋機能療法)に意味はないのでしょうか。そうではありません。大切なのは、何に効いて、何には届かないのかを分けて考えることです。
| トレーニングで変わりうるもの | トレーニングでは届かないもの | |
|---|---|---|
| 舌 | 舌の動かし方、飲み込み方の癖 | 舌が収まる上顎の広さ |
| 呼吸 | 口を閉じる意識 | 狭くなった鼻腔の広さ |
| 骨格 | (直接は変わらない) | 下がった上顎の位置、成長の方向 |
上顎の広さや鼻の通り道が保たれている子どもであれば、舌の使い方を練習し直すことで、正しい位置を覚えられる可能性があります。
ですが、舌の居場所そのものが狭くなっている子どもに、舌を上げる練習だけを続けても、舌は収まる場所を見つけられません。
MFTの効果を調べた研究をまとめたレビューでは、355本の研究のうち基準を満たしたのは4本で、そのすべてが偏り(バイアス)のリスクが高いと評価されています[5]。トレーニングの効果を否定するものではありませんが、「鍛えれば治る」と言い切れるだけの根拠は、まだ揃っていないということです。
当院が考える順番は、構造を確かめ、必要なら整え、そのうえで使い方です。舌を鍛える前に、舌が収まる場所があるかどうか。鼻で息ができる広さがあるかどうか。そこを確かめないままのトレーニングは、出口のない努力になりかねません。
赤ちゃん・新生児の低位舌|抱っこ・姿勢とマッサージ
低位舌は、大きくなってから突然始まるものではありません。
生まれたばかりの赤ちゃんは、舌を上顎につけ、鼻で呼吸するのが本来の姿です。舌が上顎についていれば、口の中に空気の通り道はなく、息は自然に鼻を通ります。
新生児の舌が上顎から離れる時——
首が反り返るような抱っこや、背中が丸まらない姿勢が続くと、首まわりの筋肉が緊張し、舌の根元を支える舌骨が引き下げられます。舌骨が下がれば、舌も下がる。赤ちゃんにとっての「姿勢の悪さ」が、低位舌の入口になります。
赤ちゃんの背中は、生まれたとき自然に丸いカーブ(Cカーブ)を描いています。このカーブを保つ抱っこは、背骨だけでなく、舌と呼吸の位置を守ることにも繋がります。
コラム:赤ちゃんのCカーブ抱っこはよくない?いつまで?|歯並びにつなぐ視点→
口を開けて寝る赤ちゃんの舌
寝ているときに口が開いている、いびきをかく。その裏側では、舌が上顎から離れていることが少なくありません。低位舌がほぼ口呼吸であることが、いちばん分かりやすく表に出るのが、眠っているときの赤ちゃんです。
コラム:赤ちゃんがいびきをかく、口を開けて寝る|様子見していて大丈夫?→
赤ちゃんの低位舌とマッサージ
赤ちゃんの低位舌も「舌の力が弱いから」と説明されることがあります。でも、おっぱいを吸う力を持っている赤ちゃんに、舌を上げる力がないとは考えにくいことです。
マッサージで首まわりの緊張をほぐすことが低位舌のケアになるのは、舌そのものではなく、舌を引き下げている原因に働きかけるからです。
ただ、マッサージの手順や力加減は、文章だけでは正確にお伝えできません。間違ったやり方で一番困るのは赤ちゃんです。当院では、赤ちゃんの状態を拝見しながら、実際にお伝えしています。
大人の低位舌と、お子様のこれから
大人の低位舌の多くは、子どもの頃に骨格が十分に育たなかった結果だと当院は考えています。上顎が狭く育ち、舌の居場所が限られたまま大人になった——だとすれば、舌の体操だけで顔立ちや二重顎まで変えるのは、簡単なことではありません。
一方で、お子様は違います。子どもの骨格は、今まさに育っている途中です。舌の居場所を広げ、鼻で呼吸できる環境を整えることは、成長期だからこそできることです。ご自身の低位舌に気付いたことが、お子様のお口を見直すきっかけになれば、と思います。
当院の考え方|舌ではなく、舌の居場所から考える
当院が低位舌のお子様を診るとき、まず確かめるのは舌の力ではありません。
上顎の広さと形、鼻の通り道、舌骨の位置、そして姿勢です。セファロや歯科用CTなどのレントゲンで、舌が収まる「場所」がどうなっているのかを評価します。
上顎の骨格そのものが育っていない場合、当院ではランパセラピー(RAMPA療法)という選択肢があります。上顎を前へ、そして上へ——本来の成長の方向へ導き、舌の居場所と鼻の通り道を骨格から整え直す治療です。
ランパセラピー後に鼻腔の容積が広がったことは、当院院長が共著者として参加した論文で報告されています[6]。第三者による独立した検証ではないことも、あわせてお伝えしておきます。
もちろん、すべての低位舌に骨格からの治療が必要なわけではありません。大切なのは、「舌を鍛えましょう」の前に、なぜ舌が下がっているのかを確かめることです。そして、骨格に変化を望むには、必要な時間、正しい方向へと力をかける構造が必要です。
低位舌とは、ほぼ口呼吸のこと。舌の位置は、呼吸と骨格の成長を映す鏡です。
よくある質問
Q. 低位舌は自分で治せますか?
——A. 舌の使い方の癖が中心であれば、練習で正しい位置を覚えられる可能性があります。ただし、上顎が狭い、鼻で息がしにくいといった構造の問題があると、練習だけでは舌が収まる場所がありません。まずは原因を確かめてください。
Q. 低位舌は遺伝ですか?
——A. 顔の形に遺伝の影響はありますが、舌が下がる原因の多くは、姿勢や呼吸など、成長の過程での環境にあると当院は考えています。「遺伝だから仕方ない」と決める前に、今の状態を評価することが大切です。
Q. 何歳から相談できますか?
——A. 年齢の制限はありません。赤ちゃんの抱っこや姿勢の段階から関わることもできます。骨格が育つ時期は限られているので、気になった今がご相談のタイミングです。
Q. 舌のトレーニングは意味がないのですか?
——A. 意味がないわけではありません。舌が収まる場所があり、鼻で呼吸できる状態であれば、使い方を覚えるのに役立ちます。順番として、構造を確かめてからトレーニング、と考えています。
参考文献:
[1] ジーシー・サークル No.190(2024年)掲載記事(歯科医師向け:低位舌と舌圧トレーニング). https://gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2024-09/no190_2.pdf
[2] Primozic J, Farčnik F, Perinetti G, Richmond S, Ovsenik M. The association of tongue posture with the dentoalveolar maxillary and mandibular morphology in Class III malocclusion: a controlled study. Eur J Orthod. 2013;35(3):388-393. https://academic.oup.com/ejo/article/35/3/388/450766
[3] Lione R, Franchi L, Huanca Ghislanzoni L, Primozic J, Buongiorno M, Cozza P. Palatal surface and volume in mouth-breathing subjects evaluated with three-dimensional analysis of digital dental casts—a controlled study. Eur J Orthod. 2014. https://art.torvergata.it/handle/2108/95127
[4] Primate experiments on mandibular growth direction. Am J Orthod. 1982;82(2):114-119. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6961782/
[5] Felício CM, et al. Effectiveness of orofacial myofunctional therapy. Dental Press J Orthod. 2014.
[6] Moshfeghi M, et al. Impact of RAMPA Therapy on Nasal Cavity Expansion and Paranasal Drainage. Biomimetics. 2026;11(1):5.(当院院長が共著者として参加) https://doi.org/10.3390/biomimetics11010005
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この記事を書いた人
院長:岡井有子
大阪歯科大学大学院歯学研究科修了:歯学博士
医療法人社団セントワ理事長
所属学会
- 日本小児歯科学会
- 日本小児耳鼻咽喉科学会
- 日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会
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